第五章〜酒ほがひ

 さて、最終章は今回の取材で立ち寄ったさまざまなお店やお土産について紹介したいと思う。いずれも私が京都に行く際には6〜7割の確率で立ち寄る店なので、リーズナブルで安心してお勧めできる優良店ばかり。読者の皆さんが京都旅行を計画する際の参考にしていただければ幸いである。

 まずはランチタイム。独特の雰囲気を楽しめる“町屋レストラン”や地元OL御用達のカフェまで京都のランチは総じてレベルが高く、価格も手ごろだ。従って、飛び込みで入ってもそうそう後悔することはないと思うが、折角来たのだから最低限全国チェーンやファストフード系は避け、なるべく京都らしいものにチャレンジして欲しい。

病みつきになる親子丼

 まずお勧めしたいのが親子丼だ。親子丼なら東京でも食べられるとお思いだろうが、京都の親子丼はひと味違う。濃厚な出汁と甘い九条葱、これにピリリとした山椒が絡み、一度食べれば病みつきになる。値段の安さなら錦市場の「まるき」、鶏専門なら高倉三条の「あざみ」、祇園で食べるなら「梅の井」といったところだが、混雑を避け、ゆったりとした遅いランチを楽しみたいなら京都高島屋の「八起庵」1,575円がお勧めだ。他にも親子鶏カレーうどんや近江軍鶏丼、鴨なんばといったメニューが味わえる。

写真上から八起庵、いづう、かさぎ屋、かざりや、イノダコーヒ、満月の阿闍梨餅、原了郭→

 京都食文化の代表格として、一度は食べて欲しいのが鯖寿司。かつて福井の小浜から夜を徹して運ばれた塩鯖と、北前船で運ばれた北海道の昆布が合体した関西寿司の代表格。扱う店は数多いが、別格なのが祇園の「いづう」。一人前2,250円、一本4,500円と値段は高いが、吟味された素材と手間のかけ方が「わかる人にはわかる」本物の味。

夢二の店でぜんざいを

 お昼のあとはデザートタイム。今も行列が絶えない祇園の「都路里」は、京都の駅ビルや東京駅の大丸にもあるので、以前に比べれば有難味も薄れてしまった。それでも、あの薫り高い抹茶パフェは捨てがたいが…。それはさておき、今回選んだ甘味処は、清水寺へ向かう二寧坂の角にある「かさぎ屋」。この店の隣には、かつて竹久夢二が住んでおり、恋人の彦野と共に通っていたことでも有名。ちょっと奮発して小豆たっぷりの亀山800円を注文。ほどよい甘さと、土瓶で注ぐお茶が、歩き疲れた体を癒してくれる。

 大徳寺方面に行ったら、平安時代から続く、今宮神社参道のあぶり餅がはずせない。「かざりや」と「一和」、“本家と元祖”2店が向かい合っているが、味に大差はないのでどちらでも。一皿10本500円だが、ひとつひとつが小さいので、男性なら軽く2人前はいける。

 京都でコーヒーと言えばやはり「イノダコーヒ」。コーヒーではなくコーヒである。こちらも東京駅の大丸に支店ができて有難味は薄れたが、風格ある堺町通りの本店で名物のモーニングセットをいただくのも良し、テラス席で青龍苑の瀟洒な庭が楽しめる清水支店もまた良し。休日は混雑するので、なるべく平日に。シーズンオフなら贅沢な時間が過ごせる。レトロ好きなら寺町三条の「スマート珈琲店」や四条木屋町の「喫茶ソワレ」、百万遍の「進々堂」に足を伸ばすのも良いだろう。

珈琲の濃きむらさきの一碗を啜りてわれら静こころなし

 清水の途中でお土産を買うなら独特のモチモチとした食感が堪らない「満月」の阿闍梨餅を。デパートの売場は結構並ぶし、出町柳の本店はちょっと遠い。ここなら清水詣でのついでに買いやすい。祇園でのお土産なら、「原了郭」の黒七味を。丸でも八角でも、一度容器を買えば詰め替え用で済む。着物柄が可愛い携帯用もある。グルメな女性に贈れば、喜ばれること請け合い。

 京都は魚が獲れないかわりに昔から野菜が豊富だった。そのため、漬け物はサラダ感覚でいただける浅漬けと、茶漬けなどに使う古漬けの両方がある。浅漬けの代表が千枚漬け、古漬けの代表がすぐきやしば漬けということになるのだが、お土産にするなら日持ちの良い古漬けが無難。千枚漬けなら今はデパートなどどこでも買えるが、味にこだわるなら麩屋町通りの「大藤」か河原町の「村上重本店」で。雰囲気を楽しむなら浅漬けが大樽にズラリと並んだ錦の「打田漬物」がいいだろう。私の場合、浅漬けは京都では買わず、近所(門前仲町)の「近為」で買ったりするのだが…。

関西おでんとおばんざい

 さて、夜のお楽しみはいろいろあるが、京都ならやはり祇園で遊んでみたい。かといって高級割烹やフランス料理は敷居が高い…。京都らしい店で、しかもリーズナブルに楽しみたいなら花見小路から少し入ったところにある「やすかわ」がお勧め。私はこの店で関西おでんのファンになった。観光客より地元の常連さんで賑わうので、予約は必須。5000円ぐらいで、おでんを含めたおまかせのコースもあり、京ならではの味をいろいろと楽しめる。

 さらに安く済ませたいなら、一力亭の隣!にある「山ふく」へ。親戚の家に呼ばれたような気安さで、おばんざいが味わえる。祇園にいながら京都人の素顔が垣間見られる貴重な店だ。

わが胸の鼓のひびきたうたらり たうたうたらり酔へば楽しき

 最後に、京都の夜に欠かせないもうひとつのスポットが先斗町。最近はこの界隈にも京都らしからぬ店が増えてきたが、どうせなら、カウンターにずらりと並んだ、ひと味違うおばんざいを堪能したい。三条側の端っこ、回転寿司のあるビルの3階にひっそりと佇むのが「ひめごぜん」。こちらのおばんざいは京野菜など地元の食材にこだわり、素材本来の味を生かすために、手間暇を惜しまない本格派。今回は体調がイマイチであまり食べられなかったのだが、よもぎ麩とあなごの煮たものと大好物の海老芋の唐揚げ(写真左)をいただいて満足。お腹が空いていたら、4000円のおばんざいコースと3000円のミニコースがお勧め。

 お二人で切り盛りするお店なのだが、ご主人と女将さんというわけではなく、接客が女性、調理が男性という役割分担で、たまの口喧嘩もご愛敬。料理が格別なのはもちろんだが、酒の種類も豊富で、おばんざいの並ぶカウンターに座れば居心地の良さ抜群。ここで年越しをする常連がいるというのもうなずける(年末年始も営業)。今回は貸し切り状態で歴史談義に花が咲き、時間の経つのも忘れて先斗町の夜を満喫した。

 というわけで、わずかに残る紅葉と、吉井勇の面影を求めた3日間。あっという間に過ぎてしまったが、帰るときはいつも、祭りの後のような一抹の寂しさが残る。春夏秋冬、いつ訪れても京都の魅力は尽きず、だからこそ何度も訪れたくなる。これから本格的な冬に入るが、観光客の少ないシーズンオフにこそ、たおやかな古都の佇まいを味わえよう。その際にはぜひ、この特集をご参考に。<次回へ続く>

先斗町のあそびの家の灯うつる 水なつかしや君とながむる