第ニ章:あなたの知らない京都

オールシーズン楽しめます

 京都市内でアクセスが良くて観光シーズンでも比較的空いていて、桜も紅葉も十分に楽しめる場所…。そんな、どう考えても無理な要求を満たす場所って知ってます?

 京都に詳しい方に聞いたら「そんな都合のいい所なんかあるわけない」って言われそうですが、実はあるんです。それは京都府立植物園。2015年春の取材でしだれ桜を満喫できた「半木(なからぎ)の道」のちょうど裏側にあたる広大な植物園です。

 「お寺でも神社でもないじゃないか。そんな場所なら京都じゃなくてもあるよ」なんて反論されそうですが、この植物園、どこにでもあるというような平均的な植物園ではないんです。

←写真上から植物園内で見かけたアオサギ、大規模な温室、一年中花の絶えない庭

 かつては上賀茂神社の末社である半木神社とその鎮守の森(半木の森)だったという由緒ある土地。大正12(1923)年の開園で、神社も森もできるだけそのままという形で造成されたため、植物園なのにちょっと神秘的な雰囲気。面積は24ヘクタール、12000種、12万本の植物が植えられ、日本最大級の温室も備えています。

 地下鉄烏丸線北山駅に直近、北大路駅からも行けるというアクセスの良さ、隣には陶板に焼き付けられた世界の名画が楽しめる「京都府立陶板名画の庭」もあり、じっくり見るなら一日中楽しめる場所。お腹が空いたらすぐ近くに洋食の名店「キャピタル東洋亭」の本店もあります。

 春にはいろんな種類の桜や梅、桃の花も楽しめるそうです。桜とチューリップの競演という夢のような風景も京都ではここだけ。シーズン中の夜は幻想的なライトアップも。四季を通していろんな花が楽しめますから紅葉シーズンや真冬でも春のような気分。特に温室は熱帯植物に限らず、珍しい高山植物や、幻想的な夜に咲く花も展示されているのでデートにも最適。

 何だかいいことばかりみたいですけど、本当にそうなんですよ。あ〜京都人が羨ましい。水辺では鮮やかな赤い紅葉の下でアオサギなどの野鳥が羽根を休めていて、まさに都会のサンクチュアリですね。

 植物園が良かったら動物園もいいんじゃないかというわけで、次に向かったのが京都市動物園。前回、前々回と動物好きが高じて行く先々で動物園に行く私ですが、こちらは上野に続いて日本で2番めに古いということで、規模は小さいながらも歴史は古く、戦時中にはたくさんの動物達を殺処分せざるを得なかった悲しいストーリーもあります。現在は植栽などが公園のように隅々まで手入れされ、桜の咲く疎水に隣接するなど季節の眺めも良い、美しい動物園です。

           写真上から京都市動物園のトラ、「グリル小宝」のランチ→

 飼育されているのは約180種。パンダやコアラのような“大スター”はいませんが、至る所でガラス張りになっていて、虎やヒョウなどの猛獣でも凄く近くで見られるのが特徴。建物の上に登ってキリンを同じ目線で見たり、ジャングルを再現した環境でゴリラを観察できたりと、「見せ方」にも工夫が凝らされており、身近な動物や樹木で構成された「京都の森」も魅力のひとつ。

 こんな本格的な動物園が平安神宮や南禅寺のすぐ近くにあるというのがいかにも京都らしいところ。この日のランチは動物園から歩いて2分、京都屈指の洋食屋さん「グリル小宝」でいただきました。流石に人気店、かなり並びましたけどね…。

主役はサンショウウオ

 さて、植物園、動物園ときたら今度は水族館でしょ。えっ? 京都に水族館? そんな声も聞こえてきそうですが、京都は「海なし県(府)」ではないんですよ。京都府は北西に細長くて、日本海側は海に面しています。とはいえ、かなり海からは遠いので海水をそのまま使うのは無理。そんなハンデをものともせず、巨大な水槽を海の魚で満たしているのが京都駅から歩いて15分ほどの梅小路公園にある京都水族館。

←写真上から京都水族館の大水槽、見た目も動きもユニークなチンアナゴの水槽、サンショウウオのクリスマスツリー

 そんな事情から、こちらの海水はすべて人工海水。でも、イルカもアザラシもペンギンも凄く元気でよ。2012年開業と、新しい水族館だけに展示もユニークで、ステップフロア形式で上がったり下がったりすることで、水の中、水の上という風にいろんな目線から見ることができます。ショータイムも豊富で、この日ちょうど見ることができたペンギンの餌付けはそれぞれペンギンの性格が出ていて面白かったですよ。しかもペンギンたちの名前が、おいけ(御池)とかごじょう(五条)とか京都の地名だらけ。ペンギン家族のマイホームを覗くと、生まれたばかりの赤ちゃんが…。

 そんなアイドルたちに会える京都水族館ですが、こちらでの本当の“主役”はオオサンショウウオ。賀茂川などのごく身近な環境で育ってきた生き物ということで、見た目が可愛いとか可愛くないとかは別にして、京都では愛着が深いのかもしれません。この水族館でも、入ってすぐの展示という特別扱いで、薄暗い水槽の中で数匹がカタマリになっています。何しろ国の特別天然記念物ですからね。由緒あるこの地にふさわしい生き物なのかも。

 そのせいか、水族館の力の入れ方も凄いんです。売店に不思議な形のオブジェがあったので近づいて良く見てみたら、何とサンショウウオのぬいぐるみを集めて作られたクリスマスツリー! このお店のメイン商品でもあります。でも、これって売れてるのかなぁ。サンショウウオ型のスリッパとか、アイデアは面白いんだけど…。

 京都には由緒正しいお寺や神社、古い美しい街並みがたくさんあって、それだけで観光資源としては十分だと思いますが、植物園や動物園、水族館と言った市民向けの施設も充実しているんですね。観光目的の旅行客は時間の制約があるから、よほどの理由がないとこうした施設には足を向けないとは思いますが、見逃してしまうにはあまりに惜しいですよね。

 でも、こうした施設こそ、あまり見ることができない京都の“ふだん着”の姿を垣間見れる場所なのだと思います。最近京都出身の方が書いた『京都嫌い』という本が、(いいほうに)誤解されやすい京都人の、普段は見せないプライドの高さや、差別意識、排他主義といった裏の顔を描いて、京都でもベストセラーになったようですが、昔から京都人には良くも悪くも「表と裏」があると言います。観光客には愛想がいいのに、隣近所には冷たい、なんて話もありますし、「おおきに」なんてニッコリしてお客さんを見送った直後に、仏頂面に変わるという話も良く耳にします。

鉄道オタクでなくとも…

 だからといって、人間が冷たいとか、コミュニティーが淡白というわけではないようです。祇園祭のような地域主体のイベントに触れると、他所から来た人は地域社会の深い結び付きに感動するといいます。要するにその歴史同様、人間関係が“深くて濃い”のだと思います。それが疎ましいと感じる人にはちょっと住みづらい土地かも。でも、私たちは京都の、京都人の“表の顔”や“よそ行き”ばかり見て、勝手に賞賛しているだけなのかもしれません。“裏の顔”も“ふだん着”も、例えかなりのギャップがあったとしても、よ〜く見てみると、それはそれでなかなか魅力的かもしれませんよ。

 さて、今回の取材もいよいよラスト。2016年4月にリニューアルして以来、連日大人気の「京都鉄道博物館」。水族館と同じ敷地内にあります。でも私、鉄道には全然興味ないんですよ。ホント、何も知らないんです。そんな私でも、本物の列車を間近に見るとちょっと心が騒ぎます。「鉄ちゃん」の気持ちが少しわかるような…。イギリス製の美しい蒸気機関車や、私たちの生活を支えてきたさまざまな懐かしい電車、昭和レトロなコーナー(写真)などもあって結構見飽きません。

名残惜しい祇園の夜

←花見小路・一力向かいの「橙」にて。ご主人と記念写真。左にあるのはかつての常連客だった川端康成の書

 さてさて、ふだん着の京都を満喫したこの日の締めは、風のたよりでご主人が引退間近と聞いた割烹「橙」。アラカン編集長長年のご贔屓店です。現在は予約客しか受けていないとのことでしたが、この日は貸し切り。もうすぐこの店の「本物の京料理」が味わえなくなると思うと、残念で仕方ありませんが、ご主人はまだまだ元気。東京での修行時代のエピソードなど、お酒が進むにつれ話も弾みます。夜のコースは初めてでしたが、松茸の土瓶蒸しも甘鯛も蕪蒸しも味わえて大満足。おみやげの「おじゃこ」も買えてラッキーでした。グルメ本やミシュランなど鼻にもかけない祇園生まれ、祇園育ちのご主人の心意気は、裏も表もない京都人の生き様としてきっと誰かに引き継がれて行くと思いますよ。(おわり)