第三章:花園ニ光コボルル〜RSKバラ園と素敵なお店

極彩色に囲まれて

 「薔薇ノ木ニ薔薇ノ花咲ク。ナニゴトノ不思議ナケレド」っていう文章、ご存知ですよね。もともとは北原白秋の詩で、これはその最初の一節です。そのあと、続きがあるんですけど、それを知っている人って少ないんですよね。

 薔薇二曲
 一
 薔薇ノ木ニ
 薔薇ノ花咲ク。
 ナニゴトノ不思議ナケレド。
 二
 薔薇ノ花。
 ナニゴトノ不思議ナケレド。
 照リ極マレバ木ヨリコボルル。
 光リコボルル。

 この詩を初めて読んだ時、私は最初の有名な一節よりも、最後の「光リコボルル」っていう一節に惹かれました。自宅の小さな庭でも、母が丹精込めて毎年バラの花を咲かせているのですが、ちょうどこの季節、雨上がりの朝なんかに見るバラは、水滴の反射と一緒になって、本当に「こぼれるように」輝くんです。いろんなお花があるけど、バラぐらい自己主張の強い花って無いんじゃないかな。

 そんなバラの花、今がちょうど見頃と聞いてやって来たのは、岡山市北区にある「RSKバラ園」。RSKというのは岡山のテレビ・ラジオ放送局で、山陽放送さんのこと。RSKというのは「ラジオ山陽」時代の略称なんですね。で、こちらの敷地はラジオの電波が円滑に届くように作られた電波緩衝地(中心部に大きなアンテナがあります)で、同時に植物公園としての機能も果たしているとのこと。1974年に開業。

 「なんだ、電波塔のついでに作ったのか」なんて言わないでくださいね。こちらのバラ園、全部で約400品種・15,000株もあるんですよ。特に5月には100万本ものバラが咲くんです。東京近郊にもバラ園はありますけど、これほどの規模にはなかなかお目にかかれませんよね。この日は平日でしたが、たくさんの見物客が訪れていました。お弁当なんかの持ち込みもOKなので、木陰でおばあちゃん達がお菓子なんか広げて、楽しそうにくつろいでいましたよ。

薔薇の名前、いくつ知ってる?

 ところで、バラってどのくらい種類があるか知ってますか? 20,000種以上もあって、それぞれに特徴的な名前があるんですよ。「ヘンリー・フォンダ」とか「マリア・カラス」とか「ミケランジェロ」みたいな有名人の名前もあれば、「ヒースクリーフ」みたいな小説の主人公、「アンフォゲッタブル」のような歌のタイトル、「淡雪」「天津乙女」みたいに和風のもの等々、それぞれに意味深な名前がついていて興味深いですよね。どうしてそんな名前にしたのかなって考えるのも面白いかも。

 バラの新種を開発する人を育種家というのだそうですが、今、私たちがお花屋さんなんかで見かけるバラは殆どが育種家が育てた「モダン・ローズ」と呼ばれるものだそうです。個人的には、そういう大輪で色鮮やかなバラも好きなのですが、地味で小粒だけど、素朴で可憐な花を咲かせる野バラも好きなんですよね。今回の旅で触れ合った岡山の人たちって、素朴で親切で、ときどきかわいい刺もあったりして、みんな野バラみたいな感じだったなぁ。

「禁酒會館」ってどーゆー意味?

 さて、今回も岡山・倉敷でいただいた美味しいお食事とコーヒーのお店をご紹介しますね。岡山の路面電車を「城下」で降りたら城下筋を南へ、岡山城西の丸西手櫓に隣接した趣きある木造の古い建物を探して下さいね。ここが「岡山禁酒會館」です。禁酒會館ってまさかそういう意味? って思った方、ストレートにそういう意味なんですよ。社会不安とか雇用不安が広がると、どうしてもお酒に走っちゃう人がいますよね。主にヨーロッパで広がっていた禁酒運動が日本にも伝わって、明治頃から各地に「禁酒同盟」が結成されます。ここ岡山でも、キリスト教系の運動家が中心になってその拠点づくりが始まり、関東大震災が起きた大正12年にこの建物が完成しました。岡山市内でも空襲を免れた貴重な建築で、国の登録文化財にも指定されています。

←写真上から禁酒會館内「珈琲屋 ラヴィアン カフヱ」のカレーライス、「cafe moyau」の1階ソファー席、「八文字」でいただいた先付、地元の銘酒、お造り

 この「禁酒會館」の1階にあるのが、「珈琲屋 ラヴィアン カフヱ」さん。岡山でランチと言えば、ラーメンやデミかつ丼、えびめしなんかが有名ですけど、実はカレーの街でもあるんです。こちらでは、岡山城の石垣も見えるなんともレトロな雰囲気の中で、古いレシピをそのまま使ったなつかしい味の「カレーライス」がいただけます。1日10食限定なので早い者勝ち。食後のコーヒーも美味しいですよ。あ、そうそう。お店のお母さんが編んだ手編みのバッグや帽子も売られていて、今回私がかぶっている帽子も、お母さんの作品です。ニットはたいてい自分で編むんですけど、お母さんの素朴さが嬉しくて、編み物仲間として迷わず買っちゃいました。

 岡山はお洒落なカフェの街でもあります。コーヒー専門店もたくさんあって、カフェの食事メニューも充実。今回、岡山城〜後楽園と巡ってきて一休みしたのが「cafe moyau」さん。旭川沿いにあって、古民家を改造した今どきのカフェ。1階はセミオープンのソファ席、急な階段の先にある2階はお座敷席、旭川が一望できる大きな窓とカウンターのある別室にはたくさんの本が。お一人様でも静かにのんびり過ごせるし、仲間と一緒にワイワイもできるし、TPOに応じていろんな使い方ができそう。フードメニューも雑穀米や野菜中心のヘルシー志向です。今回は食べられなかったけど、ここのカレーも美味しそう。

「温羅」という名の銘酒も

 そして、岡山市内でのディナーは西川緑道公園駅から徒歩1分、赤い暖簾が目印の「八文字」さん。岡山郷土料理のお店です。岡山の美味しい物って言ってもほとんど予備知識がない私、ここは迷わずおまかせで。コースは5,000円からあるのですが、今回はちょっと奮発してもうひとつ上のコース。結論から言えば、いろんな地元のものがいただけて凄くお得です。鰆(さわら)、黄ニラ、ままかりといった岡山の代表的な食材はもちろん、鱧(はも)のしゃぶしゃぶとか、おこぜの揚げ出しとか、普段あまり食べられないものばかり。味付けもとっても上品なんです。

 私は普段日本酒は飲まないんですけど、「岡山のお酒は美味しい」という女将さんのおすすめで試しにいただいてみました。地酒に「温羅」という銘柄もあるんですよ。とにかく銘柄が豊富なので、1合づついただいていたら、どのお酒も飲みやすくてスイスイいっちゃう。気がつかないうちに結構量が増えちゃいました。そういえば私のことを“酒豪”なんて失礼な呼び方をしている人がいるみたいなんですけど、私だってそんなに強くなかったのに、宝塚の先輩方に“鍛えられた”んですからね。でも、今回はちょっと飲み過ぎたかな。帰り道、私の頭に浮かんだのは「禁酒會館」の看板でした。

 岡山での朝ごはん、美味しいコーヒーも飲みたいと思ったら、岡山駅西口から直結したリットシティビル2階にある「ザ・コーヒーバー」さんがおすすめ。今回はクロックムッシュをいただいたのですが、味もボリュームもバッチリ。コーヒーはアラビア社のムーミンカップに淹れていただけるんですよ。ムーミンファンは要チェックかも。

 岡山や倉敷などの都市部では多種多様なお店があるのですが、吉備路のような郊外に出かけるとなかなかお店探しが難しくなります。そこで今回重宝したのが、備中国分寺のすぐ近くにある「まほろば珈琲店」さん。珈琲店と言っても駐車場が広くてファミレスみたいにゆったりした造り。こちらのランチメニュー、美味しそうなんですけどかなりボリューミーだったので、今回はナポリタンをいただきました。喫茶店のナポリタン、結構好きなんですよね。コーヒーがポットサービスなのも嬉しいかも。全席ソファー席なので旅の途中でもくつろげますよ。

通は淹れ方にこだわる?

 倉敷美観地区にはもう、1日では探しきれないくらいたくさんの素敵なカフェがありますよね。今回の旅で、私はデニム生地の着物に心惹かれてしまって、扱っているお店でいろいろ見せていただいたのですが、そちらで「コーヒーの美味しい店知りません?」ってお聞きしたら「ちょうどここの裏側の路地にありますよ」とのこと。

 それが「コバコーヒー 倉敷川店」さん。「くらしき庭苑」というスペースの一角で、なにげに隠れ家っぽい場所。知らないと絶対通り過ぎそう。普段は1階がピアノのある喫茶スペースで、2階がイベントスペースになっているようなのですが、この日は1階で何かの撮影中だったので、2階に案内していただきました。で、こちらの特徴は何と言っても淹れ方にこだわりがあること。

 ペーパードリップ、サイフォン、フレンチプレスのいずれかを選べるんです。それなのに1杯500円とリーズナブル♪ そういうお店ってなかなか無いですよね。近くにピンク色の蔵が印象的な6席だけの「kobacoffee 焙煎工房」もあるので、もし時間があったらそちらにも行ってみてくださいね。

写真上から「ザ・コーヒーバー」のモーニングメニュー・クロックムッシュ、「まほろば珈琲店」のナポリタン、「コバコーヒー 倉敷川店」の2階、キャンドルだけの照明がムーディーな「キャンドル卓 渡邉邸」→

“ゆらぎ”のある世界

 さて、ラストは倉敷でのディナー。美観地区周辺には有名な店がたくさんあるのですが、今回セレクトしたのは宿泊した倉敷ロイヤルアートホテル(旧日航ホテル)のすぐ近くにある「キャンドル卓 渡邉邸」さん。ホテルにも重要文化財「大橋家住宅」の米蔵を改装した「八間蔵」という素敵なフレンチレストランがあるのですが、「キャンドル卓 渡邉邸」さんの“照明はキャンドルのみ”というコンセプトにちょっと惹かれて、こちらに決めました。

 外観はシックな古民家。場所は美観地区から少し離れているのですが、知らなければここにレストランがあるなんて気がつかないほど周囲の風景に溶けこんでいます。まだ日が沈む前にお邪魔したのですが、すでに店内にはたくさんのキャンドルが灯っていて、ムーディーな雰囲気。日が沈んで、夜の闇が深くなるとまさに真骨頂。

 ロウソクの炎って、「1/fのゆらぎ」って言って、不規則な揺れに癒やし効果があるんですよね。こちらでは大好きな赤ワインをいただきましたよ。お料理はイタリアンのコースで、色とりどりの前菜やチーズの盛り合わせがワインにピッタリ! デザートもボリューム満点で、このコースが3,500円〜5,000円というのだから驚き。記念日やデートにもぴったりですよ。2階はキャンドルショップになっていて、こちらも素敵。ただディナーは完全予約制なのでそれだけは注意してくださいね。

 さて、今回も楽しくて美味しくて大満足の旅でした。岡山も倉敷も吉備路も、それぞれが個性的で、いろんな表情を持っています。大人の旅にふさわしい“歴史の奥深さ”があっておすすめですよ。新幹線もフライトも使えてアクセスも便利なので、まだ行ったことがない人も、リピーターの人も、自分らしい自分だけの旅を探してみてくださいね。<次回をお楽しみに>