第ニ章:恋もお金も神頼み~京都ご利益めぐり

パワースポットって何?

 ここ数年、パワースポットっていう言葉を良く聞きますよね。でも実際にパワースポットって何?って聞かれると、わかっているようなわかっていないような…。インターネットの「デジタル大辞泉」には「霊的な力が満ちているとされる場所。[補説]1990年代ごろからのオカルトや超自然主義の流行に伴って使われだした」なんて書かれていますが、そもそも霊的な力って何なの?って聞かれると、また答えに窮してしまいそう。

 いろんな情報をまとまると、古代から信仰の対象で、自然崇拝が行われていた土地を指すことが多く、その土地から大地の“気”のようなパワーをもらうことができる場所ということのようです。科学的には、大きな磁場ではないかと唱える人もいますが、必ずしもそうではない場所もあるようです。

 作家の荒俣宏さんによれば「本来なら厳しい修験を行ってはじめて得られる力を、その場所に詣でるだけで得られる、身分性別を問わず得られる」ことから、熊野三山詣でやお伊勢参りが流行したように、基本的に神社仏閣のような宗教施設はそういった力のある土地に建てられ、古くから霊場とか聖地と呼ばれるようになったとのことです。

 パワースポットと呼ばれる土地に行くだけで、何か自然界のパワーがいただける、その効果の事を昔から「ご利益」なんて言葉で表現して来たのかもしれません。京都はそんなパワースポットの宝庫だということで、自称“京都通”の編集長が選んだ「ご利益スポット」を巡って、その効果を実感してみようというのが今回のテーマです。

 コースは① 神泉苑 ② 御金神社 ③ 六角堂 ④ 誓願寺 ⑤ 蛸薬師堂 ⑥ 矢田寺 ⑦ 泉涌寺の順。

 地図を見てみると、⑦の泉涌寺以外はすべて市街地にあって、頑張れば歩いて回れそうな距離。でも、時間の制約があるので、自転車を借りることにしました。京都は道が狭い上に一方通行も多くて、駐車場だって決して安くはありませんから、ちょっとした市内観光なら自転車がベスト。でも、大きな通り以外は自転車専用レーンもないし、駐輪禁止の場所も多い(その分、有料の駐輪場はたくさんあります)ので、事故や迷惑駐輪には気をつけて下さいね。

 初秋のサイクリングはなかなか快適。この日はお天気も良かったので心地よく風を切って走りました。ホテルのある河原町三条から最初の目的地、神泉苑に行く前に、前の晩にチェックしておいたカフェに直行。場所はちょっとわかりにくいのですが、その分秘密めいていてナチュラルテイストたっぷりの「CLAMP COFFEE SARASA」。こちらで美味しいコーヒーとトーストをいただきました。こちらのお店、入り口のところにキウイフルーツの木があって、実もたくさんなっているんですよ。

龍が棲む池で願い事

←写真上から京都市内でのサイクリング、「CLAMP COFFEE SARASA」のモーニングセット

 お腹が落ち着いたところですぐ近くの神泉苑へ。今はちょっと地味目の神社のようにしか見えませんが、二条城建設に伴って縮小されるまでは南北約500メートル、東西約240メートルという、池というより湖沼というべきスケールだったそうです。水は湧き水で枯れることがないため、昔から龍神が棲むと言われてきました。風水に詳しい方なら、都市の中心にあって「龍が水を飲みに来る場所」と説明すれば納得されるかもしれません。この場所の南側を東西に横切る「御池通」の名前の由来とも言われていますし、源義経と静御前はここで出会ったんですよ。

 一般にはあまり知られてはいませんが、地元の方に聞くと、ここは京都でも有数のパワースポットなのだそうです。特に赤い「法成橋」の中央部分には強い気が流れていて、念じながらこの橋を渡ると願いが叶うとか。早速私も渡ってみました。でも、お願いすることが多すぎて、龍神様にはイマイチ伝わらなかったかも…。

 次に参拝したのが御金(みかね)神社。二条城のすぐ東側にあるこじんまりした神社です。でも、鳥居を見てビックリ。「名は体を表わす」っていうけど、嘘みたいに金ピカなんですよ。もうおわかりですよね。こちらはお金を祀る神社なんですよ。

     上から神泉苑の法成橋、御金神社の黄金鳥居、六角堂本堂で縁結び祈願→

 もともとは「金光教」の神社で、「金神」という恐ろしい神様を祀っていたようです。現在は「金山彦命」(かなやまひこのみこと)を主祭神としているので、鉱山や金山、金属を扱う人を守護する神社というのが正しいようなのですが、実際には資産運用やギャンブル、宝くじなどの“ご利益”を求める人がひっきりなしに訪れて、熱心に参拝しています。

 ご多分に漏れず、私も真剣に拝んじゃいました。やっぱりお金は大切ですものね。そんなに沢山は要らないけど、全然無いのも困る。ほどほどでいいから、一生困りませんように…。あっ、でもやっぱり沢山あるには越したことはないわね。一度ぐらい宝くじが当たってもいいかも…。

 …とまぁ、欲が出すぎないうちに次の目的地へ。華道で有名な「池坊」発祥の地としても知られる六角堂。正式には頂法寺(ちょうほうじ)と言って聖徳太子が建立したと伝えられる由緒正しいお寺です。境内にある太子が沐浴したという池にちなんで本坊を「池坊」と呼ぶようになったとか。本堂が六角形なので通称「六角堂」。通りの名前も「六角通」です。境内にやたらと鳩が多い(可愛い鳩のおみくじもあります)ことでも、京都のちょうど真ん中にあるということで「へそ石」があることでも有名です。

おみくじで“縁結び”

 こちらでの“ご利益”は、本堂の前にある大きな柳の木がポイント。柳の枝を2本まとめておみくじで結ぶと良縁に恵まれるそうです。平安時代初期、嵯峨天皇が夢で「六角堂の柳の下を見よ」というお告げを聞き、現地に行ってみると、そこには絶世の美女が…。その美女がめでたくお后(きさき)に迎えられたとか。以来、 この柳は「縁結びの柳」として全国のシングル男女の信仰を集めているそうです。 当然、私も結びましたよ。おみくじは自販機でしたけどね。ついでに結果は「小吉」でしたけど…。

 お次は繁華街の真ん中、京極通にある誓願寺。浄土宗西山深草派の総本山です。観光客の喧騒の中にあって、黄金の阿弥陀如来がドンと構えていらっしゃるのがちょっと不思議な光景。この場所だけ違う空気が流れてるみたい。かつては清少納言や和泉式部も深い縁があったと言われ「女人往生の寺」という通称も。また、お寺の住職さんや若いお坊さんが修学旅行の学生を相手に、面白おかしく説法する風景は現在では当たり前ですが、実はこのお寺が元祖なのだそうです。

 それが高じて、講談や落語(発祥の地とも言われています)、漫才といった芸人の成功を祈願するお寺として有名になり、更には祇園の芸妓さんを始め、さまざまな芸事に関わる人達の信仰を集めるようになりました。私も芸能に関わる者として、ここははずせないところ。もっと上達して、いいお仕事がいただけますようにって一所懸命にお祈りしていたら、鐘楼のあたりで猫ちゃんがアクビしていました。

 このお寺、昔から人通りが多かったらしく、門の前に「迷子みちしるべ」と彫られた石柱があって、右側には「教しゆる方」、左側には「さがす方」と記されています。江戸の「一石橋」と同じように、迷子や落し物の掲示板として使われていたんですね。

タコと病気の不思議な関係

 続いては、今回の取材で私が一番“ご利益”を期待した蛸薬師堂こと浄瑠璃山林秀院永福寺。六角堂同様、蛸薬師通という名前の由来でもあります。お寺のホームページには「寺内に一歩踏み入れただけでも、蛸薬師如来さまのご加護がある」という心強い言葉。こちらを参拝する人の願いは殆どが無病息災か、病気治療。私の場合超の字がつく健康体で、周りに病人もいないのでちょっと違うようにも思えたのですが、俄然興味を持ったのは、境内に鎮座しているタコ様に左手をかざすと、痛みを吸い取ってくれるというお話を聞いたからです。

 レポートの最初でちょっと愚痴ってしまいましたが、公演以来、なかなか体の痛みが取れないのです。でも“病気のデパート”を公言しているアラカン編集長が、たまたまここに来て手をかざしたら、体の痛みがス〜っと引いていくような不思議な感覚を覚えたという話。半信半疑ながら私も手をかざしてみたのですが、結果は…。やっぱり日頃の信仰心が大事なのかもしれませんね。

←上から誓願寺本堂、キュートな“鐘つき猫”、蛸薬師堂

 ところで、病気治癒とタコと、どういう関係があるの?と思った皆さん、蛸薬師如来の由縁を一応説明しておきますね(HPから引用)。後深草天皇の御世、永福寺に善光と言う僧がいました。ある時、お母さんが病気になったので寺に迎えて看病していましたが、一向に回復しません。お母さんは「子供の頃から好物だった蛸を食べれば病が治るかもしれない」と言いました。僧である善光は躊躇しましたが、意を決して市場に出かけ、蛸を買って箱に入れました。これを見た町の人々は僧侶が生魚を買った事に不審を抱き、善光のあとをつけて寺の門前で、箱の中を見せるようにと彼を責めたてます。善光は困り果て「この蛸は、私の母の病気がよくなるようにと買ったものです。どうぞ、この難からお助け下さい」と一心に薬師如来様に祈りました。すると、箱の中の蛸はたちまち八足を変じて八軸の経巻となり霊光を四方に照らしました。この光景を見た人々は皆合掌し、南無薬師如来と称えると不思議なことに、この経巻が再び蛸になり、門前にあった池(現在の神泉苑)に入り、瑠璃光を放って善光の母を照らし、病気はたちまち回復したというお話。

 もっとも、これは永福寺に限った説話で、蛸薬師は全国各地にあります。タコは危険を感じると墨を吐く習性から、暗闇でも見える目を持つ生き物ということで、眼病を治す力がある、あるいは「たこの吸出し」という軟膏があるように、吸盤で吹き出物や膿を吸い出す力があるという俗説が民間信仰に発展し、それが拡大解釈されて病気一般に効くということになったみたいですね。

地獄で仏とはこのこと?

 蛸薬師から出発地点の河原町三条方面に引き返して、今度は矢田寺。こちらは寺町通と三条通の交差点にあって、アーケード街の一角。誓願寺同様、賑やかな場所です。こちらの“ご利益”はお地蔵様が私達の苦しみをすべて代わりに受け止めてくれるという有り難いような申し訳ないようなもの。実際、ご本尊の地蔵菩薩立像は地獄の火の中に身を置かれているし、絵馬には釜ゆで地獄に苦しむ亡者をお地蔵様が救うお姿が描かれています。

          上から矢田寺のちょっとホラーな絵馬と、可愛すぎるお守り→

 でも、このお寺の最大の魅力は、ユニークなお守り。お地蔵様のぬいぐるみ(800円)なんですよ。ご住職が一家総出で手作りされているとのことで、一体一体すべて表情が違うんです。良縁成就・安産祈願・無病息災という万能の?お守りで、ぬいぐるみの中にはちゃんと御札が収められているんですよ。ご住職に「可愛いお守りですね」と言ったら、「こないだ鶴瓶が取材に来たで」「えっ、何ていう番組ですか?」「何やったかいな。ぎょうさん来おるから忘れてしもうた…」

 午前中のご利益サイクリングはこれでおしまい。午後からは、自転車ではちょっと無理めな泉涌寺です。近くの伏見大社にも行こうと思ったら、地元の方から「あそこはお狐さんやろ。やめといたほうがええわ。それより、紅葉の時期になると混雑してゆっくり見られへんから、すぐ隣の東福寺に行ったほうがええよ」とのアドバイス。素直に従って、泉涌寺から東福寺というコースに決定しました。

美貌の観音様は中国製

 泉涌寺は格式高い皇室の菩提寺で、「御寺(みてら)」とも呼ばれています。もともとは仙遊寺というお寺でしたが、鎌倉時代、再興した際に泉が湧いたので現在の名前になったとか。一見してわかる特徴が中国(宋)風の伽藍群。これは寺を再建した学僧・俊芿が長く宋に留学していたことが影響しています。

←上から泉涌寺楊貴妃観音堂、中国風の伽藍、庭園

 こちらでの“ご利益”は、大門をくぐってすぐ左手にある楊貴妃観音堂がポイント。安置されているのが宋から運ばれてきた観音像なのですが、いかにも大陸風のエキゾチックで美しい風貌から、もしかすると玄宗皇帝が亡き楊貴妃の冥福を祈って作らせたのかも、いやたぶんそうだ、そうに違いない…という感じで伝説化してしまったようです。以来、この観音像は「楊貴妃観音像」として知られるようになりました。

 その美貌にあやかりたい、ということから、こちらでは「良縁」「縁結び」「美人祈願」「安産」といった女性守護のご利益があると広まったみたいですよ。でも、もっと美人になりたい、という欲張りな人は下鴨神社の中に“日本第一美麗神”玉依姫命(たまよりひめのみこと)を祀った河合神社がありますので、そこで名物の「鏡絵馬」をメイクしたり、カリン美人水を飲んだりすれば、パーフェクトかも(結果に責任は持てませんが…)。

 ところで、泉涌寺のもうひとつの大きな特徴ですが、皇室のお寺ということで、至る所に菊の御紋があること。瓦も釘隠しの金具も、みんな菊です。この日は季節柄、丹精込めて育てられた菊の花も展示されていました。こじんまりしていますが、いかにも通好みといった感じのお庭もあり、昭和天皇がこちらを参拝の際に詠まれた歌が残っています。

 「春ふけて 雨のそぼふるいけ水に かじかなくなり ここ泉涌寺」

本来なら桜の名所だった?

 さて、ご利益目当てではありませんが、この日のラストはタモリさんのCMでもおなじみ、紅葉が鮮やかな通天橋のある東福寺。全盛時の規模には及ばないものの、今でも25の塔頭(お寺の中のお寺)を擁する大寺院です。

 しかも、大きいのは面積だけではなくて、本堂や三門も最大級のスケール。それまで見てきたお寺がいっぺんに小さく思えてしまう迫力です。寺名は奈良の東大寺、興福寺から一文字ずつ取ったもので、そのことからも大仏殿を建立したかったことがわかります。実際、創建時の鎌倉時代には15メートルほどの釈迦像が安置されていたのですが、度重なる火災で消失しています。

上から東福寺方丈の北庭、南庭、通天橋からの眺め、「京の五閣」のひとつ・常楽庵伝衣閣→

 お寺の規模がある程度残されているのは、京都の中心部ではなかったため、応仁の乱の戦火を免れたからだそうです。しかし、室町時代から残る三門や、昭和9年竣工の本堂など、新旧の建造物がそれぞれ特徴的なのもこのお寺の特色。特に方丈にある通称「八相の庭」は、近代の巨匠・重森三玲の作。南庭の枯山水は龍安寺のように伝統的な禅庭ですが、北庭の市松模様を描く石と苔はモダンアートそのもの。

 京都の紅葉といえば必ず名前が上がる通天橋は、戦後に一度台風で崩壊しましたが、その後鉄筋コンクリートで橋脚部分を再建しました。観光客が大挙押し寄せても崩れませんのでご安心を。もともと紅葉を眺めるためのものではなく、仏殿と常楽庵を往復するには深い谷を渡る必要があり、その苦労を軽減するために渡した橋。

 谷間の紅葉は当初は桜の木が植えられていたのですが、「後世に遊興の場になる」との声を受けて伐採、代わりに宋伝来の「通天モミジ」と呼ばれる三葉楓(かえで)を植えたそうです。ということは、もしかしたら紅葉ではなくて桜の名所になっていたかもしれませんね。観光客が殺到する風景はどっちにしても変わりませんけどね。

 そんなわけで、盛りだくさんの“京都ご利益巡り”いかがでしたか?「ご利益だけを期待して寺社に行くなんて不謹慎だ」とか「そんなに沢山拝んだら、神様同士が喧嘩するよ」なんて声が聞こえてきそうですが、ものは試し。もしひとつでもご利益があったらラッキーじゃないですか。実際、私も少し体が楽になった気がします。もっともそれは、自転車を漕いだことで多少筋肉がほぐれたせいかもしれませんけど…。
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