第三章:琵琶湖畔の城下町を往く〜彦根・長浜

「城ガール」ではないのですが…

 近頃、歴史マニアの女性のことを「歴女」と呼ぶのが一般化しつつありますよね、「歴女」の中でも特にお城好きな女性のことを「城ガール」なんて呼ぶそうです。私は「歴女」でも「城ガール」でもないのですが、お城を見るのは結構好きなんです。

 なぜそんな話をしたかというと、今回ヴォーリズ関連の取材で訪れた琵琶湖の東側(湖東)って、歴史的に有名な戦国武将のお城や城跡がたくさんあるんです。織田信長の安土城を筆頭に、羽柴(豊臣)秀吉の長浜城、石田三成の佐和山城、浅井長政の小谷城、井伊家の彦根城、豊臣秀次の八幡山城、湖東ではありませんが、三井寺参拝で訪れた大津市には明智光秀の坂本城もあります。

 そうとわかれば行かない手はないな、と考えた私、スケジュールをやり繰りして、当時の姿がほぼ守られている国宝・彦根城と、再建された天守ですが、桜の名所として名高い長浜城に行ってみることにしました。安土城址にも行ってみたかったんですけど、ほとんど何も残っていない上に結構な“登山”になると聞いたので、今回は見送り。

写真上から彦根城・玄宮園、お堀の白鳥、天守閣、同内部、夢京橋キャッスルロード、宗安寺門前の鯉と金魚→

 まずは彦根城。JR彦根駅から徒歩10分で行けるので、アクセスは便利です。東京からは新幹線で約2時間10分、米原駅で東海道線に乗り換えて約5分。京都からは、東海道線新快速で約46分。車なら高速を使って約1時間10分。結構楽ちん♪ですよね。

 さて、晴天の中到着した彦根城は桜があと少しで見頃。石垣もお堀もよく整備されていてキレイ。まぁそれはいいのですが、案内地図を見てビックリ。なにしろ、縮小された現在でも積地面積24,000坪、完成時には75,800坪もあったというのですから、とにかく広いんです。今回はたまたま玄宮園というお庭に近い駐車場に車を駐めたのですが、案内の方に聞いたら、天守に登るなら、大手門の方から行くよりこちら(黒門)の方がずっと近いとのこと。

 お城ですから、当然防御中心に設計されていて、あちこちが攻めにくい(つまり登りにくい)構造になっているそうです。その辺の仕掛けが「城ガール」の方にはたまらないところなのだそうですが、全部見ていたら一日が終わってしまいそうなので、とりあえずお庭を見学して、その後、ほぼ直線距離で登れる黒門ルートで天守まで行くことにしました(普通の人は大手門から入って黒門から出るそうです。あしからず)。

見た目は優雅、中身はハード?

 というわけでまずは玄宮園。延宝6年(1678)に4代藩主井伊直興が整備し、文化10年(1813)には第11代藩主井伊直中が再整備したとか。もともとは琵琶湖の入江に面していて、とても風光明媚な上に、北側の水門から舟で琵琶湖まで出られるというスケールの大きな庭だったそうです。その後埋め立ててしまったので、往時の面影はないにせよ、十分魅力的なお庭です。お隣に瀟洒な御殿と枯山水があるのですが、これを「楽々園」といって、2つを合わせて「玄宮楽々園」とも呼ばれます。

 玄宗皇帝の離宮庭園を参考に、「瀟湘八景」を「近江八景」に置き換えて作ったということから、玄宮園という名前になったそうですが、岡山の後楽園もそうでしたが、大名庭園というのは殿様が自分のお城、特に天守を眺めるために作ったような気がします。だから、ここから見る天守は特別に良い眺め。

 お庭から出てお堀端を歩いていたら、人懐こい白鳥が近づいてきました。動物好きにとってこういう偶然ってホントに嬉しいですよね。何かあげたかったけど「白鳥へのエサやり禁止」の看板。小声でごめんねとつぶやいて彦根城の黒門へ。

 こちらの門から天守閣までは、ちょっと急な坂を登って、ゆっくり歩いても10分ほど。途中で自動販売機に補充する缶やペットボトルを背負って、汗だくで往復する人を何人も見ました。私たちはどこに行っても気軽に飲み物が買えてありがたいけど、文化財を守るためには、陰でこんな努力があるんですね。頭が下がります。

 近くで見る天守は、思っていたより小さかったけど、とても優雅な佇まい。何より、往時の姿そのままに残されていることがスゴイ。明治維新で全国の城が破壊されたのに、なぜ薩長にとっては仇敵だった大老・井伊直弼の城を残したのかは謎ですが、保存を決めたのは明治天皇が彦根を巡幸した際の一言だったとか。きっと何か理由があったんでしょうね。興味がある人は調べてみてくださいね。

ひこにゃんはどこ?

 天守は誰でも登れますが、昔のままなので階段は角度がキツイですよ。特に降りる時がかなり怖い。女性の場合、スカートを履いた方はやめたほうがいいです。あと、履物は自分で持って歩くので、重いブーツも避けたほうがいいかも。私はそのどちらでもなかったので登りましたけど。当時の武士は刀をさしたり、鎧兜でこの階段を登り降りしたわけですがら、凄い体力ですよね。天守台付近からは琵琶湖が一望できますが、天守には楼閣や大きな窓がないので、苦労して登っても、あまり景色は期待できません。でも、何と言っても国宝ですからね。一度は登ってみないと。鉄砲狭間とかそのまま残っていてリアルですよ。

 さて、今回私が見た彦根城はごくごく一部。井伊直弼が不遇な時代に暮らしていた埋木舎(うもれぎのや)とか、復元された御殿を使った彦根城博物館とか、見どころはたくさん。それに、このお城も時代劇のロケ地として有名ですから、どの映画のどの場面か確かめてみると楽しいかも。加えてあまり有名ではないけど、お堀端にヴォーリズの建築物もあるんですよ。「ひこね市民活動センター」として使われているので探してみてくださいね。

 他にも井伊直政が石田三成の佐和山城を嫌ってこの城の構想を立てた話とか、実現する前に亡くなったので家臣が意思を継いだ話とか、建築の際に佐和山城の資材をかなり流用しているとか、エピソードは尽きないのですが、その辺は「城ガール」の皆さんには到底勝てないので、ミーハーな私は江戸時代の城下町をイメージした「夢京橋キャッスルロード」へ。あっ、そうそう、この日は残念ながらひこにゃんには会えませんでした。スケジュールを見たけど結構忙しいのね。

 夢京橋キャッスルロードは、「食べる」「見る」「買う」と、何でも揃ったおしゃれな“江戸村”。大正時代をテーマにした一角(四番町スクエア)もあります。ここを一通り眺めるだけでも2〜3時間はかかりそう。お寺の前にあったきれいな水路で金魚や鯉を眺めていたら、近くで賑やかな鳥の声が。街中なのに自然たっぷりなのね、なんて思っていたらそこはペットショップでした。文鳥が可愛かった♪

フィギュアに囲まれ大興奮

 彦根から長浜までは車で30分足らず。電車ならJR東海道・山陽本線新快速で15分の距離。車で行く場合は、長浜城の周辺が豊公園という大きな公園になっていて、そこに無料駐車場があるので便利ですよ。ただし、お花見シーズンはすぐに満車になってしまうそうなので、ご注意。

 長浜城は琵琶湖の畔にあるので、近くにはリゾートホテルもあって景観も美しい観光地。すぐ近くの長浜港からは“神の島”竹生島を往復する観光船も出航しています。竹生島には凄く行きたかったのですが、この日は雨の上に強風のため出航は約束できないとのこと。あ〜残念!次回のリベンジを誓って歴史博物館を兼ねた長浜城天守へ。

 長浜の「長」の字は織田信長の「長」だって知ってました?羽柴秀吉が浅井長政を打ち破った功績で信長から今浜(いまはま)と呼ばれていた旧浅井領を拝領する際に、一字いただいて改名したそうです。建築資材は小谷城から流用。その後、長浜城廃城の際には資材の殆どが彦根城に使われたそうなので、戦国時代って意外にエコというか合理的だったんですね。

←上から長浜城天守、黒壁ガラス館内部、海洋堂フィギュアミュージアムエントランス、精巧なティラノサウルス、翼果楼の名物・鯖そうめん

 こちらの天守は彦根城と違って昭和58年(1983)に再建された鉄筋コンクリート建てなので、エレベーターも完備してます。天守内の歴史博物館で昔の図面を見ると、天守が琵琶湖の中に浮かんでいるような形になっています。城内から琵琶湖に直接船で出入りできたそうですから、レイクサイドの風光明媚なお城だったようですよ。5階から眺めると、琵琶湖と豊公園の桜が一望できて絶景でした。

 さて、竹生島に行けなかった分、時間が余ったので長浜市街を散策して見ることにしました。実はそれほど期待していなかったのですが、これが大当たり!凄く魅力的な街なんです。街の中心部に、黒漆喰を使った歴史的建造物を中心にした「黒壁スクエア」という区域があって、黒壁の建物はレストランやスイーツショップ、土産物屋さんなど「1號館」から「30號館」まであるそうです。1號館(旧国立第百三十銀行長浜支店)はさまざまなガラス製品のアートギャラリーになっていて、長浜観光の核になっています。

 中でも、29號館は、フィギュアファン必見の聖地、「海洋堂フィギュアミュージアム黒壁」。入り口で等身大のケンシロウ(『北斗の拳』)と、大魔神がお出迎え。ミュージアムに入るには800円必要ですが、これにはガシャポン1回分の料金も含まれています。

 ミュージアムに入ると、そこはもう大人も子供も大興奮の世界。あの有名キャラからマイナーなキャラ、アラカン世代にもお馴染みのゴジラやウルトラマン、世界の動物や古代の恐竜まで、殆どがジオラマ化されて展示されています。展示されているフィギュアを買うこともできるので、ここに行く際には是非貯金をおろして来てくださいね(別に私、海洋堂さんの回し者ではないのですが)。

“うだつの上がる”街並み

 興奮し過ぎてお腹がすいたので北国街道(ほっこくかいどう)沿いにある「翼果楼(よかろう)」さんへ。こちらの名物が「焼鯖そうめん」。焼きサバとそうめんを炊き合わせた料理で、湖北特有の家庭料理なのだそうです。農繁期の5月、農家へ嫁いだ娘に、親の実家から焼鯖を届ける「五月見舞い」というのが由来だとか。忙しい時でも米を炊かずに簡単に手早く料理できるため、春祭りやハレの日に食べる郷土料理として一般化したようです。しかも美味しいのだから言うことなし。

 お店は築200年の商家をそのまま活かしたもので、琵琶湖なのに鯖が主役というのも、中山道と北陸路を結ぶ北国街道ならではという感じがします。小浜から京都へ鯖を運んだ「鯖街道」を途中で分岐し、北国街道を通って海のない長浜にも鯖が運ばれたようです。翼果楼はそうめんだけじゃなくて、焼き鯖寿司も美味しいですよ。

 この北国街道、かつては琵琶湖水運と直結した陸の重要路でした。必然的に町衆による自治がこの地に根付き、中でも秀吉に選ばれた長浜町十人衆の筆頭、三年寄を勤めた安藤家は、明治以降に近江商人と姻戚になり、呉服商人として成功しました。その屋敷が「北国街道 安藤家」として保存されています。

 かの北大路魯山人がこの商家に2年もの間逗留し、離れの書院「小蘭亭」に襖絵や天井画を残したことでも有名です。その先には八角塔が印象的なレトロ洋館、長浜旧開知学校があります。この街にはたくさんの歴史的建造物があって、きちんと整備・保存され、自然と街並みに溶け込んでいます。商家の並びに「うだつ」がたくさん見られるのも、この街が豊かだったことを表していますよね。

上から開知学校、北国街道安藤家、自家焙煎珈琲 高千穂、大通寺表参道、京極寿司→

 黒壁スクエアに戻って、大手門通りから一本北の道に入ると、疲れた体をとろけさせるコーヒーの香り。覗いたお店は「自家焙煎珈琲 高千穂」さん。迷わずここでコーヒーブレイク。高千穂、日之影、天岩戸という神話世界のようなネーミングのブレンドがあって、これを選ぶのにはちょっと迷いました。注文してから豆を挽いて、一杯ずつ淹れてくれるので、期待は膨らみます。結果は予想通り大正解。相変わらず珈琲店には鼻の利く私です。

 この通りには女性がお一人で個性的でオシャレな革のバッグを作っている店やさまざまな工房もあって、ちょっと見逃せませんよ。長浜ってアーティストの街でもあるんですね。この道を左に曲がると、ながはま御坊表参道に出ます。この通りもタイムスリップ感抜群。ながはま御坊とは、正式には「真宗大谷派長浜別院大通寺」。湖北を代表する名刹です。

 巨大な山門を抜けると、スケールの大きな本堂が眼前に。この本堂は伏見城の遺構と伝えられ、奥には含山軒庭園と蘭亭庭園という2つの庭園もあります。長浜には、他にも曳山博物館、慶雲館、ヤンマーミュージアム、長浜鉄道スクエア、舎那院、神照寺、総持寺、知善院、長浜八幡宮、豊国神社の六瓢箪めぐり、浅井歴史民俗資料館「お市の里」、成田美術館など、見どころはたくさん。今回早めのディナーをいただいたアーケード内の「京極寿司」さんなど、メチャメチャ美味しくてリーズナブルなお店も選び放題。竹生島へのリベンジも含め、絶対にもう一度着たいと思った私でした。<次回をお楽しみに>