第ニ章:大自然に癒やされる~日光

明智平と光秀の関係

 日光といえば、東照宮ですよね。実は私、行ったことないんですよ。そもそもあんまり興味ないし。でも、一応行ったほうがいいのかなぁと思ったら、アラカン編集長いわく「東照宮はさぁ〜、メジャー過ぎるよね。観光地として。それに今平成の大修理で、メインの陽明門も見られないから、絵的にもイマイチ。それより、日光の良さは何と言っても大自然。天気さえ良ければ、中禅寺湖、戦場ヶ原、華厳の滝、竜頭の滝、湯滝、湯ノ湖と、絶景には事欠かない。それにアナタの場合、普段から都会の汚れた空気ばかり吸ってるでしょ。リフレッシュするには最適だよ」

 そういうことなら話は早いですよね。東照宮はパスして、日光の大自然を満喫する旅♪ しかもトップシーズンでなければ、宇都宮から中禅寺湖周辺まで車で1時間という話。天気もいいし、絶好のハイキング日和です。

 そんなわけで、最初に目指すのは明智平。この地名、明智光秀生存説の有力な根拠になっているそうです。家康からの絶大な信頼を背景に、秀忠の代に家康の遺体をわざわざ久能山から日光に移して、家光の代には上野に寛永寺まで造った江戸のフィクサー、天海僧正。100歳以上まで生きたこの人が実は光秀だったという説。

 でも、この人が本当に光秀だったら、史実と照合すれば享年116歳ということになるので、さすがに無理があるようです。この地が日光最初の絶景ポイントということで、途中までは高速でスイスイ行けたのですが、だんだん標高が高くなってくると、無茶苦茶きついカーブの上り坂が続きます。そう、これが有名な「いろは坂」。正しくは上り専用の「第二いろは坂」です。

 「い」から「ね」まで20回、体を前後左右に揺らしながら、やっと到着。車で1時間と言っても、絶景を見るのはそう簡単ではないんですね。ここで車を止め、ロープウェイに乗って展望台へ向かいます。展望台に着くと、すぐに中禅寺湖と華厳の滝のパノラマが目の前に…。湖の水が滝になって落ちる、というのは理屈では理解できますけど、実際にその様子を見る機会はなかなかないですよね。あ〜、そういうことが本当にあるんだって、改めて感動しました。

ず〜っとここに居たい!

 明智平を過ぎると、ほどなく中禅寺湖が見えてきます。今度は華厳の滝をもっと近くで見ようということで、エレベーターで100メートルを一気に下り、観瀑台へ。この日は水量も豊富で、間近で見た落差97メートル、滝幅7メートルの瀑布は大迫力。マイナスイオンを全身に浴びてきました。

←写真上から華厳の滝、イタリア大使館別荘本邸、記念公園内の湖畔

 続いて向かったのは、イタリア大使館別荘記念公園。湖畔にあるのを地図で確認して、カーナビの案内で走っていたら、坂を登る途中でいつの間にか通りすぎてしまったので、引き返してみたら、道の途中にちょっとした駐車場があって、そこから歩いて降りて行くことが判明。

 この小さなハイキングコースは、木々の間からきらめく湖面が見えたり、小鳥のさえずりが聞こえてきてなかなかいい感じ。やがて視界が開けてくると、杉皮葺きの瀟洒な建物が見えてきます。これがイタリア大使館別荘。平成9年まで歴代大使の避暑地として使われていました。

 明治から昭和初期にかけて、中禅寺湖畔は夏の国際社交場だったんですね。各国の大使と職員、その家族が、それぞれの別荘を拠点に、鱒釣りやボート遊び、ヨットレースなどに興じていたそうです。別荘の本邸は第一章で紹介したフランク・ロイド・ライトの弟子で、旧帝国ホテルの設計を補佐、そのまま日本に留まって数々の名建築を残したアントニン・レーモンドの作。茶室などで使われる杉皮を外装だけではなく内装にまでまるごと使った建築物は、他に例がないそうです。

 本邸は2階建てで、湖に向いた窓は大きく取られ、絵のような風景を独り占め。2階には歴代大使の肖像写真が飾られています。1階は広々としたワンルームで、家族の楽しげな笑い声が聞こえてきそう…。そんな光景を想像しながら歩いていたら、「華月由舞さんですよね」と声をかけられてビックリ。こんなところでファンの方にお会いするなんて、世の中狭いですよね。

 本邸から続く白いバルコニーを降りて、湖畔に出てみると、右手に雄大な男体山を望むおだやかな浜辺は、まるで時間が止まったかのような静けさ。5月の優しい風が頬をなで、何気なく視線を落とすと、波打ち際に小さな魚影が。「ず〜っとここに居たい!」と思わずひとりごと。

   写真上からコーヒーハウスユーコンの百年ライスカレー、戦場ヶ原の風景→

 スケジュールの都合上、ずっと居るわけにもいかないので、とりあえずランチタイム。以前から食べてみたかった「百年ライスカレー」を目当てに、金谷ホテルが経営する「コーヒーハウス ユーコン」へ。「百年ライスカレー」というのは、金谷ホテルに残っていた大正時代のレシピを再現したという人気メニューで、カレー好きなら一度は食べてみたい逸品。今回はニジマスのフライが付いた「トラウトカレー」を注文。小麦粉の風味と、チャツネの利いた甘めのルーは、その頃のことを知らないのに“懐かしい”と感じる不思議な味でした。

小学生に「ごめんなさい」

 お腹がいっぱいになった分、即座のカロリー消費を目論んだ私。予定を変えて有名観光地・竜頭の滝はスルー(地元の方が華厳の滝や湯滝に比べるとイマイチと言っていたので…)。戦場ヶ原をハイキングすることにしました。ガイドブックを見ると、赤沼自然情報センターから戦場ヶ原に入って、湯滝に抜ける約1時間のコースがおすすめとか。車で行く場合には赤沼自然情報センターで車を止めて、湯滝まで歩き、湯滝からバスに乗って赤沼自然情報センターに帰ってくるという経路です。

 この日は天気が良くて、風もおだやかな絶好のハイキング日和。行先はずっと2本の木道が敷かれているので、すれ違うときに邪魔にならないし、道標も必要なくて快適です。木道は湯川沿いに続くので、常に水の流れを感じながら歩くことができます。

←写真上から戦場ヶ原の風景、湯滝、日光珈琲御用邸通のかき氷

 そんな好条件で、マイペースで歩ける(結構歩くの早いんです)かと思ったら、いきなり小学生の団体と遭遇。どいて下さいとも言えないので、仕方なく後をのろのろ歩いていたら、引率の先生が気を使って「後ろから人が来るから道をあけなさい」と言って下さったので、大人げないと思いながらも「ごめんなさい」と言いながら紅白帽子の可愛い子どもたち数十人をごぼう抜き。

 そんな風に子どもたちに気をつけながら歩いていたので、周囲の風景にあまり気を止めなかったのですが、子どもたちの嬌声が遠ざかった頃にふと立ち止まってみると、そこは荒涼として、それでいて神秘的な世界。一面、枯れ木と枯れ草が広がる先に、青々とした森と山々があり、その上には澄み切った青い空。この時期の湿原特有の風景なのでしょうが、こんな大胆な自然のコントラスト、作ろうと思っても作れるものじゃないですよね。

 戦場ヶ原という地名の由来は、神々の伝説。下野国(栃木県)の二荒神(=男体山)と上野国(群馬県)の赤城神(=赤城山)が中禅寺湖を巡って領地争い。それぞれが大蛇と大ムカデに化けてここで戦ったというお話です。神話というより、怪獣映画みたいですよね。ちなみに勝者は二荒神。弓の名手だった孫の小野猿丸を味方につけたからだとか。広大な湿地を指して「千畳が原」と呼んだのが起源という説もあります。戦後まもなく行き場を失った満蒙開拓団によって農地として開拓され、栃木の名産・いちごの栽培が始まった場所でもあるそうです。現在はラムサール条約登録湿地として厳重に管理されています。

 独特の風景がしばらく続きますが、やがて周囲に緑が増えてきて沢沿いの山道に入ると、倒木もそのままに、荒々しい手付かずの自然が広がります。起伏の激しい木の根道を進むと、やがて滝の水音が…。それが終点の湯滝。湯滝は、日光湯元温泉のお湯が流れ込む湯ノ湖から湯川に流れるダイナミックな滝。近くにいたおばさまが「あの滝ってお湯が流れてるの?」って言ってましたけど、残念ながら水のようです。

 湯ノ湖もじっくり散策したかったのですが、バスの時間が近づいていたので、やむなく断念。湯滝入口からバスに乗って赤沼自然情報センターにUターン、そのまま帰途につきました。もちろん、帰りに待ち構えているのが下り専門の第一いろは坂。「な」から「ん」までの28のカーブをゆらゆら揺られるドライブコース。

頭が痛くならない?

 ところで、日光に行ったらこれだけは試してこいと編集長に言われたのが、かき氷。日光は全国でも有名な天然氷の産地で、4代目徳次郎・松月氷室・三つ星氷室という3つの氷室があるそうです。全国でも天然氷の氷室は5つしかないので、どこの店に行っても「天然氷」と書かれていれば、殆どが日光産なのだとか。

 そこで帰り道は、すぐに高速に乗らずに、日光の市街地に向かいました。目的地は「日光珈琲 御用邸通」。古民家を改装した店内は心も体もほっこりします。メニューを見て、一瞬コーヒーにしようかなと思ったのですが(コーヒーの名店でもあるんです)、ここは初志貫徹で「氷宇治金時」をオーダー。ほどなく運ばれたかき氷は、思わずたじろぐほどのボリューム。どうやって食べるんだろ、などと考える前に崩れてきそうなので、恐る恐るスプーンを入れると、あ〜、やっぱり崩れた。

 編集長は、天然氷は頭がキ〜ンと痛くならないって言ってたけど、確かに痛くないような痛いような…。でも、ふわふわであっという間に溶けていく、冷たさも美味しさもちょっと“儚(はかな)い”かき氷は初めての体験でした。

謎のカタマリ

            写真上から名物「柚子味噌」(一番下の皿)と庄助店内→

 さて、宇都宮に戻ってこの日の“締め”は市内でもナンバーワンと言われる居酒屋「庄助」さん。カウンターには京都のおばんざい屋さんみたいに大皿料理が並んでいます。もうそれだけで私はテンションマックス状態。他にも、ウドのきんぴらとかコゴミの胡麻和えとか、私好みの家庭料理メニューが黒板に書き込まれています。これをチョイスして、競馬の投票用紙の裏にエンピツで書くのがこの店のルール。できれば全部食べてみたいけど、そうはいきませんよね(いろいろ頼んだら、そのくらいにしておきなさいって、店の人に言われちゃいました)。

 ちょっと気になったのが、お店の片側に、縄紐で縛られて天井から吊るされている謎のカタマリ。どうやらそれがこの店のオリジナルで、ここでしか食べられないという「柚子味噌」のようです。もちろんオーダーしましたよ。どんな味かって? それはご自分で確かめて下さいね。まぁ、お酒を飲む人(特に日本酒)には堪らないでしょうね。

 そんなわけで、風景に感動して、いい空気を吸って、たくさん歩いて、たくさん食べた一日。自然のヒーリングパワーって本当に凄いですね。明日は花と動物かぁ。楽しみ、楽しみ。
<第三章へ>