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季節ごとにテーマを決め、ゆったりしたスケジュールで古都を歩く。日本の原風景を求めて…。そんな旅こそ“アラカン世代”にふさわしいのではないだろうか。第16回目は、「シカゴ」公演を終えてリラックスムードの華月由舞さんが案内する初冬の京都。
だいぶご無沙汰してしまいました。華月由舞です。実は、今回の取材の前に沖縄取材の予定があったのですが、台風の襲来であえなくキャンセル。そこで、今回は満を持して紅葉の京都ということになったのですが、なぜか例年より早く色づいてしまったので、最盛期の美しさを味わうこともできず…。考えてみるとここ数年の異常気象、温暖化のせいだと言う人もいますが、そこは大きな地球の事情、ちっぽけな人間の思い通りにはいきませんよね。
というわけで、あまりタイムリーな写真も撮れそうにないので、今回は観光地としての「表の顔」よそ行きの京都と、「裏の顔」ふだん着の京都、それぞれの京都をちょっとマニアックにご紹介しようという企画。自称“京都通”の方でも知らないことがあるかも…。
まずは世界的観光地・京都の代表格、清水寺へ。八坂神社、円山公園、高台寺、八坂の塔から二寧坂、産寧坂(三年)坂を通って清水の舞台までの黄金ルートは、お土産屋さんや飲食店が立ち並んで、生活臭ゼロのまさに「表の顔」。
誰でも知っている場所だけあって、春と秋のトップシーズンは人混みもトップクラス。先に進もうと思っても身動きが取れません。それでも敢えてここを選んだのは、平成の大改修工事で、間もなくあの「清水の舞台」にある本堂が見られなくなってしまうから。この工事は東京オリンピックが開催される2020年ごろまで続くようです。その代わり、現在は工事が終わって美しく蘇った三重塔などを見ることができます。
←写真上から改修が終わって美しく夕陽に映える清水寺三重塔、嵐山の竹林、紅葉の常寂光寺
清水寺ファンの方なら、工事前の今が見に行くチャンスかも。真冬の京都は寒いことを除けば、観光客も少なくてゆったり過ごせますよ。特にお正月の時期は古都独特のムードがあって素敵。
ところで、思い切って何かにチャレンジすることを「清水の舞台から飛び降りる…」なんて言いますけど、実際に飛び降りちゃった事件が江戸時代の元禄7(1694)年から元治元(1864)年までに235件(未遂も含む)もあったそうです。でも、意外に亡くなった人は少なくて生存率は85.4%だとか。そんな無茶をして何か得るものがあったんでしょうかねぇ…。
続いて訪れたのは、こちらも京都観光の代表格、嵐山。ここには友人の家があるので、何度か来たことがあるのですが、観光シーズンは初めて。案の定、物凄い人出で、渡月橋なんか日曜日の原宿みたいです。一応、ランドマークの竹林や紅葉の名所、常寂光寺にも行ってはみましたが、人、人、人の波で情緒を楽しむ余裕なんかありません。本当は比較的混雑の少ない嵯峨野の方まで足を伸ばす予定だったのですが、途中で断念。
代わりに、2015年春の取材で行くはずだったのですが、スケジュールの都合で行けなかった“嵐山の穴場”に行ってみることにしました。それは「大悲閣千光寺」。大堰川や高瀬川の開削で名を残す豪商・角倉了以が、工事で亡くなった人々を弔うために、嵯峨の中院にあった後嵯峨天皇ゆかりの古刹を移転したもの。
角倉了以に関しては「大江戸四方山話」に詳しく書いてありますので、そちらを読んで下さいね。観光の中心嵐山にあって、大悲閣からの長めは“絶景”と言われているのに、どうして穴場なのかと言えば、とにかくアクセスが悪いからなんです。
渡月橋から大堰川の南岸を上流に向かって1キロ弱歩くと参道の石段が見えてきます。その石段の右側に星野リゾートが経営する「星のや 京都」があるので、宿泊客なら船で行けますが(現在は宿泊客でなくても有料で乗れるようです)、一般客は基本徒歩かレンタサイクル。しかも、この石段の傾斜が急で結構段数があるので、足腰に自信のない人はどうしても敬遠しがち…。
それでもエメラルドグリーンの大堰川は上流に行くほど美しさが際立ちますし、石段も根性で登っていけば(杖も用意されています)、そこは別世界。途中には鐘楼もあり、さすが山の上だけあって一人3回までなら鐘つきも自由。これってなかなか経験できないので、結構嬉しいかも。
写真上から大堰川河畔、千光寺山門、鐘つき自由の鐘楼、大悲閣からの絶景、ご住職と愛犬・すみれちゃん→
穴場とは言っても、そこはトップシーズンですから、結構観光客も来ているようです。驚いたのは外国人が多いこと。どこで調べたの?っていうくらい、最近はいろんな場所で見かけますよね。ご住職にお聞きしたら、かつては荒れ放題で、傾いて危険だった大悲閣を救ったのは、意外にも海外からの浄財だったとか。2012年の改修工事で、すっかり安全で綺麗になりました。
切り立った絶壁にあるこの大悲閣からの眺めは、眼下に大堰川、遠くに京都市内と比叡山が見渡せて本当に絶景なのですが、ご本尊(恵心僧都作の千手観音菩薩)のある本堂には角倉了以の木像もあって見どころ満載。そして何よりリラックスさせてくれたのは、ご住職の愛犬・すみれちゃん。7歳の女の子です。このワンちゃん、すごくおとなしくて可愛いんです。しかも、撫でてあげると細い目をもっと細くして気持ちよさそう。こちらが疲れて撫でるのをやめると、前足で腕にタッチして「やめないで!」っておねだりしてくるんですよ。可愛すぎてキュン死しそう!
すみれちゃんにすっかり癒やされた後は、のんびりと下山。下界(渡月橋近辺)の喧騒が嘘のような静けさです。土産物屋さんが立ち並ぶ天龍寺近辺が「表の顔」ならば、千光寺は「裏の顔」。こうした“あまり有名ではないけど味わい深いお寺や神社”が、京都にはたくさんあるんですね。こうした“穴場”、ネットでも検索できますから、トップシーズンでもゆっくり過ごせますよ。
嵐山と京都市街地の間はJR、阪急、京福電鉄の3線が結んでいますが、トップシーズンはどれに乗っても流石に混雑します。それならレンタカーで、と考える人もいると思いますが、渋滞は半端ではないし、駐車場も空いてません(空いていても駐車料金が凄く高くなっています)。どうしても、という方は早起きして出かけるのがベスト。駅前で待っていてもこの季節、タクシーはほとんど空きませんので、前もって貸し切りがお勧め。駅から各所の観光スポットまで多少お金を払ってもいいという方は、人力車で「高いところから」という手もあります。人力車は車道も通れるし、一般客より優先されるんですよ。
ちなみに地元の方にお聞きすると、観光シーズンは「行かないのが一番」だそうです。確かに…。
さて、トップシーズンに清水寺、嵐山という京都の2大メジャー取材を敢えて敢行したものの、予想通りの人混みにウンザリ気味。それでもワンコに癒された後、JR嵯峨嵐山駅から特にあてもなく二条駅で途中下車。そういえばお昼ごはんもまだでした。
二条界隈と言えばやっぱり二条城でしょうけど、前もってリサーチしておいた「京都人が普通に散歩する道」を散策することに。
←写真上から堀川遊歩道の飛び石、SONGBIRD COFFEEのカレー
それは、堀川沿いの遊歩道。堀川は平安時代に改修された運河で、紆余曲折を経て流れも失われ、雑草などで荒れ放題だったのが、「嫁入り前の女性は通ってはいけない」という安倍晴明伝説で有名な一条戻り橋から御池通まで2002年から2009年にかけて整備されました。
この遊歩道、毎日歩いても飽きないようにさまざまな工夫が施されています。特に御池通から続く堀川通側の石垣は二条城建立に使われたもので、各大名家の刻印も残っています。春は桜、夏はイルミネーション、秋は紅葉と、季節を感じられるスポットでもあります。
二条城を横に見ながら、堀川通から遊歩道に降り、しばらく歩くと周囲の喧騒がうそのような静けさ。途中に飛び石やベンチもあって、運動部の学生さんや、犬を連れて散歩する人とすれ違います。橋の下を何度もくぐって行くのも景色が変わってなかなかいい感じ。
丸太町通りの少し手前で地上?に出ると、ごく普通の目立たないビルに、目立たない看板を発見。そこの2階がお目当ての「SONGBIRD COFFEE」。
このお店、カレーが美味しいと評判なんです。加えて名古屋の吉岡コーヒー、岐阜のシェルパコーヒー、京都の六曜社地下、かもがわカフェといった超人気店のコーヒーがいただけるというお得感。デザイン事務所のような飾り気のないインテリアも魅力(3階ではオリジナルデザインの家具を展示販売)。
お目当てのカレーは鳥の巣みたいな盛り付けに半熟卵。スパイシーな中に甘さもあって予想通りの美味しさでした。お腹がいっぱいになったら、レトロな堀川商店街でも冷やかしに行こうかな。こちらは個性的な店も多くて生活臭プンプンですよ。それにしてもこの界隈は歩く人の観光客率が低いですね。ついさっきまで人混みの中にいただけに、それだけで嬉しくなります。早くも“ふだん着の京都”にハマりそうな予感。
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