第一章:一度は見たい祇園祭

 季節ごとにテーマを決め、ゆったりしたスケジュールで古都を歩く。日本の原風景を求めて…。そんな旅こそ“アラカン世代”にふさわしいのではないだろうか。第17回目は、元宝塚歌劇団花組の娘役で、2014年に退団した後、女優として、またアパレルブランド・パロレッタのプロデューサーとしても活躍する春花きららさんが案内する真夏の京都・神戸。

“京都通”が選ぶのは後祭

 アラカン読者の皆様はじめまして、春花きららです。「春花」と言っても今は夏真っ盛りですけどね。季節感がなくてごめんなさい。今後、秋とか冬のリポートもあるかと思いますが、その都度「秋花」とか「冬花」とかに変える予定もないので、旦那はん、堪忍どすえ(すっかり京都気分)。

 タイトルは、さんざん迷った挙句「KILA☆LAND(きら☆らんど)」に決めました。「大ヒットしたあの映画のパクリじゃないか」なんて言われそうですが、そこもまぁ、寛大な心で受け止めていただければ…。全国各地のキラキラした風景や人々、美味しいお酒や料理なんかも紹介しますので、これまでこのコーナーを担当されてきた諸先輩方には及ばないかもしれませんが、不肖・春花きららがご案内するKILA☆LANDをお忘れなく!

 ところで、今回のテーマは祇園祭とカフェ。その祇園祭ですが、13年もの間関西で暮らしてきたのに、生で見るのは今回が初めて。アラカンリポーターの諸先輩もおっしゃっていますが、現役の頃は公演に追われて本当に時間がないんですよ。おまけに普段から出不精なインドア体質なので、有名な観光地でも殆ど知らないのと一緒。でも、その分初めて見聞きすることばかりなので、新幹線に乗る前からドキドキ・ワクワク。

 現在、祇園祭のハイライトである山鉾巡行は毎年7月17日の前祭(さきのまつり)、7月24日の後祭(あとのまつり)の2回行われているのですが、実は昭和41(1966)年に一旦統合されて1回きりだったものが、48年後の平成26(2014)年、2回に復活したそうです。

写真上から祇園祭・後祭宵山の様子。山鉾のひとつ「南観音山」、演奏者が山鉾に乗っての祇園囃子、動画(2016年撮影)をはさんで京都を代表するおばんざいの盛り合わせ、鱧の湯引き、加茂茄子田楽→

 当初は最も華やかだという前祭に合わせて日程を組んでいたのですが、地元の方から「人出が物凄いからあんまりお勧めできまへんな。特に今年は三連休やから大変なことになるで〜。ホテルもバカ高くなるし。行くんなら後祭の方がじっくり見物できてええよ」とのアドバイス。急遽後祭に変更しました。ちなみに今年の前祭での宵山(前夜祭みたいなもの)の人出は32万人。32万って、みんな一斉に京都の街に繰り出したら、どんな感じになるの? 冷房のない通勤電車みたいなもの? それはちょっと大袈裟か…。

 確かに山鉾が23基も繰り出す前祭と比べると、10基の後祭はこじんまりした感じだけど、今年のような猛暑の中、人混みを避けて見物できるというのは大きなメリット。アラカン世代の皆様にもお勧めかと…。

これぞ日本の夏

 日が高いうちにカフェの取材を終えて(あとでゆっくりご紹介)、夕方にホテルで着替え、宵山に備えて久々の浴衣。髪もクルクル巻いて、お飾りを着けて、いやが上にも気分が盛り上がる〜♪ このままそぞろ歩きもいいけれど、まずは腹ごしらえというわけで、地元の方に選んでもらった「旬菜 いまり」さんに直行。

 そこは宵山の会場に近いおばんざいの店。以前からカウンターの上にたくさんの惣菜(おばんざい)が並ぶお店に憧れていたワタシ。遂に夢が叶ったぜぃ! 何を食べたかは写真を見て下さいね。この時期、旬の鱧(ハモ)は絶対にはずせませんよね。でもそれ以上に最高だったのが、土鍋で炊いたシメの鯛めし(蛸めしもアリ)。ムチャクチャ美味しかったです。あんまり美味しくて写真撮るの忘れてました。ぜひぜひ、実際に行って確かめて下さいね。あっ、もちろんお酒もいただきましたよ。十四代とか…。えっ、それは山形のお酒で京都のお酒じゃないって? そもそもワタシ、京都のお酒を知らないので…。

 ほろ酔い気分でお店のドアを開けると、ほんのり涼しい夜の風。コンチキチン♪〜の祇園囃子と提灯の明かりがいい感じ。まるで江戸時代にタイムスリップしたみたい。もっとも、今のような山鉾を曳く祭の形になったのは鎌倉時代あたり。祇園祭は、疫病の流行を鎮めるために始まった貞観年間(平安時代)の「御霊会」(祇園祭の原型)から数えればすでに1100年以上の歴史を持つんですって。さすが京都。

 山鉾や笠鉾を展示・管理する町が、そのまんま地名になっているのも、伝統を感じさせます。例えば「橋弁慶山」は「橋弁慶町」、「役行者山」は「役行者町」。祇園祭というのは行事全体の総称で、基本は町単位の、庶民(町衆)のお祭りなのね。だから各町内には「会所」があって、予算面、人事面を含めて、運営は各町の自主性に委ねられているみたい。バブル期の「地上げ」が影響して、古くから住んでいた人がどんどん引っ越してしまい、町家とビルが混在する街並みになっても、最近転入してきたマンションの住民にも参加を呼びかけたりして、伝統の灯を消すまいと努力してきたから、今の祇園祭があるのだそうです。

←祇園祭後祭巡行の様子。交通規制された御池通からスタート。下は動画

 山鉾や笠鉾のある場所では、地元の子供達も参加して厄除けの粽(ちまき)や記念の手ぬぐい、うちわなんかを販売しています。この粽、京都に行ったことのある人なら、民家の玄関先に掛かっているのを見たことがあると思います。知らない人は「この粽どうやって食べるの?」なんて必ず聞いてくるとか(ワタシもそうでした)。かつては鉾の上から巡行中に撒いていたものが、今では祭を保存するための立派な収入源になっていて、町内の大人も子供も参加してひとつひとつ手作り。もちろん買いましたよ、人気の大船鉾で。

大迫力の山鉾巡行

 山鉾や笠鉾が並び、宵山、宵々山のメイン会場となる新町通と室町通は、普段は観光地の喧騒とは離れた、ひっそりとした通りなのだそうです。それが祭が始まると同時に一気に花が咲いたような賑わいになります。「古都逍遥」の第一回では歌人の吉井勇をテーマにしていましたが、その吉井勇の作品にこんな歌が。

 「またしても 誰が袖屏風ほめに来ぬ 宗達好きの 祇園会の客」

 「祇園会」とは、祇園祭の古い呼び方、「誰が袖屏風」というのは、衣桁や屏風にたくさんの衣裳を掛け並べた様子を描いたものだそうです。「宗達」はもちろん「風神雷神図」で有名な俵屋宗達のこと。宵山の期間中、ふだんは家の中に眠っている美術品や調度品を、虫干しを兼ねて見物客に公開することを別名「屏風祭」といって、祇園祭の風物詩にもなっています。というわけで、今回、室町通の「屏風祭」をいろいろ見て回ったのが、下の写真。

 どうですか? 宵山の雰囲気が少しは伝わったかなぁ。ちなみに「宗達好きの祇園会の客」というのは吉井勇自身ではないかという解釈もあるようです。さてさて、宵山の喧騒から一夜明けた朝が、いよいよ本番、豪華絢爛な山鉾巡行です。スタート地点の御池通は、思ったより見物客が少ない上に、徒歩1分という近場のホテルに宿泊したので、10分前のスタンバイでも楽ちんでしたよ♪ 

 最初に耳に飛び込んできたのは、この時とばかりに鳴きまくる蝉の声。ああ、日本の夏だなぁなんてつぶやいているうちに先頭の鉾がスタート。実際に間近で見る山鉾巡行は、曳き手の掛け声や、大きな車輪の軋む音も加わって迫力満点。上の動画では、すっかりレポーターとしての立場を忘れて、ただの観光客になってスマホで写真を撮ってるワタシが写っていますが、そこは朝早くから時間をかけてセットしてきた浴衣姿に免じてかんにんしておくれやす。

 やっぱり、見ると聴くとでは大違い。上手く言えないけど、厳かな中にきらめく独特な華やかさは、一見の価値大アリです。ただこの山鉾、上の方を見ると激しく揺れているけど、屋根に乗っている人たちは怖くないのだろうか…。ワタシは絶対に乗れないな。高所恐怖症だもの。

どっちが女湯?

 それにしても今年の夏、連日猛暑日が続いてますよね。せっかく旅行に来たのだから、時間の許す限りあちこち回りたい。でも、体力に不安があったり、熱中症にも気をつけなきゃならないし…。そんな時は行く先々のカフェで休憩するのが一番。歩き疲れた体を休め、水分や糖分をチャージすれば、一気にリフレッシュ。

              写真上からさらさ西陣の外観、ワンプレートランチ→

 とはいえ、どうせ行くなら、どこにでもあるような喫茶店や全国チェーンの店ではなくて、地元色豊かで個性的な店がいいですよね。今回は、以前このコーナーで特集した「神戸のカフェ文化」「由舞の三都物語」に続いて、第一章と第二章で京都の、第三章では神戸の、一度は行ってみたいユニークなカフェをご紹介します。

 まずは、船岡山公園の近く、鞍馬口通に面した「SARASA NISHIJIN(さらさ西陣)」さん。こちらのカフェ、いろんなメディアで取り上げられている大人気店なのですが、お世辞にも交通アクセスがいいとは言えません。でも、行ってみる価値はありますよ。バスで行くなら大徳寺前で降りて、南に向かってテクテク10〜15分ぐらい。タクシーやレンタカーで行くときは、鞍馬口通が西から東へ一方通行なので、堀川通ではなくて千本通から入ったほうが良さそう。駐車場もあります。

←写真上から、今宮門前通と大徳寺を隔てる土塀。瓦や般若の面などユニークな意匠が埋め込まれています。下は今宮神社で熱心に◯◯◯を祈願するワタシ

 このお店、何がユニークなのかというと、かつての銭湯をほぼそのまま改装してカフェにしているところ。正面にドンと立派な軒唐破風のある外観は、まさに昭和の銭湯そのもの。中に入ると、想像以上に広くて開放的な空間。手前には脱衣場だったと思われるスペースがあって、奥には男湯と女湯を分けた壁の一部が残っています。向かって右側がテーブル席、左側がソファー席になっていて、テーブル席で食事するも良し、ソファー席でくつろぐのも良しというオールマイティーな造り。

 この日はランチにしたかったのでテーブル席の方へ。かつての銭湯全盛期を偲ばせる、壁一面に貼られたマジョリカ風?タイルがアクセントになっています。ランチは3種類で、ワンプレートでの盛り付け。これにドリンクが付いてジャスト1000円。見た目の可愛らしさに加えて味も量も栄養バランスもGOOD。ご飯やパンはおかわりできますよ。

 ところで、このテーブル席は男湯だったのか、女湯だったのか? あとで詳しい人に聞いたら、一般に関東では向かって左が男湯、右が女湯なのですが、関西では逆なのだそうです。ということはワタシがランチしたのは男湯だったのね。これって貴重な体験?

 カフェじゃなくて、本物のレトロ銭湯に行って旅の汗を流したいという人には、すぐ近くにある「船岡温泉」がおすすめ。もともと大正12年創業の料理旅館だっただけに、庭付きの豪華な建物は文化庁の登録有形文化財に指定されています。

 この日は、少し時間があったので大徳寺や今宮神社に足を伸ばしてみました。大徳寺・大仙院では、有名な尾関宗園(おぜきそうえん)住職に人生で大事なこと、ワタシが今、何を為すべきかを直接教えていただき、感謝感激。もちろん、「玉の輿」が叶うと有名な今宮神社も参拝、東参道で京都名物「あぶり餅」もいただきましたよ。ちなみに、このあぶり餅のお店、北側が「一文字屋和輔(一和)」さんで創業1000年超! 南側の「本家 根元かざりや」さんが創業400年超だそうです。京都の老舗ってあまりに老舗過ぎて、なんだか時間の感覚がなくなりそう。
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