第三章:〆はやっぱり味噌がいい

まるでカーリング選手?

 市街地を歩いていると、至る所に高層ビルが林立していて、札幌って本当に大都市だなぁって実感します。しかも明治以降に都市計画が立てられたということもあって、道路は整然とした碁盤の目。雪国特有の道路の広さも目につきます。でも、ちょっと残念なのは、そんな明治・大正期の歴史的遺構や町並みが少ないこと。

 その点では小樽のほうが現存率が高くて、かつての町並みが見たい人は小樽へ、ということになるのでしょうけど、実は札幌にはそうした町並みや歴史的建築物を再現した野外博物館があります。御存知でした? それは「北海道開拓の村」。札幌市の東部と江別市、北広島市の3市にまたがる広大な野幌森林公園にあるのですが、公園の一部と言っても54ヘクタールという広さ。前章で中島公園が東京ドーム4.5個分と紹介しましたが、こちらは何と約16個分。

←写真上から旧開拓使札幌本庁舎、有島武郎旧宅(内部)、旧青山家漁家住宅、同内部

  その広〜い敷地に北海道百年を記念し、昭和58(1983)年に開村。全部で52棟の歴史的建造物があり、実際の建物を移築したものもあれば、忠実に再現されたものもあります。札幌の中心部から行くにはJR千歳線または地下鉄東西線で新札幌駅(地下鉄は新さっぽろ駅)下車、バスで15分ほど。駅前からタクシーも利用できます。到着後、駐車場から見上げると古い駅舎のような建物が。これがエントランスで「旧札幌停車場」を縮小再現したものだそうです。

 エントランスでは往時の服装(コスプレ?)や長靴なんかも借りることができます。ワタシもちゃっかり山高帽を借りて村内へ。そこはまぶしいほどの一面の雪。入ってすぐ左側にあるのが緑と白のコントラストが印象的な「旧開拓使札幌本庁舎」。明治6(1873)年の竣工ですが、残念ながら明治12年に焼失、こちらは再現されたものです。そこから先は往時を偲ばせる市街地を再現した町並みが続くのですが、ちょうどワタシの到着を待っていてくれたように馬ゾリが出発寸前。あわてて飛び乗りました。

 ソリを引っ張るのは純白の可愛い道産子。道産子というのは貴重な日本在来馬で、2011年の統計では全部で1000頭余り。こちらの村では常時3頭飼育しているそうです。この道産子ちゃん、小さくて可愛いけど力持ち。なんだかカーリング選手みたい。ワタシ達観光客を7人乗せたソリをグイグイ引っ張ります。元気すぎて? たまにソリがジャンプするのでお尻が痛くなるのが難点ですが…。村内の一部を一周して帰ってきたらモグモグとイチゴならぬ雪を食べていましたけど、雪っておいしいのかな? この馬ゾリに乗れるのは冬季のみで、通常は線路を走る馬車鉄道が運行。旧浦河支庁庁舎前と旧ソーケシュオマベツ駅逓所を結んでいますが、今年の春には線路が延長されて入り口からすぐに乗れるようになるそうです。

 さて、52棟の建物すべて見学したいところですが、一日では全然時間が足りません。何しろ建物は一棟一棟が大きい上に、外観だけじゃなくて、内部や家具、道具まで忠実に再現されているし、当時の暮らしを再現するためにマネキン人形まで置いてあるので、何度もドキッとさせられます。しかもセンサーで人の出入りを感知すると声や音まで聞こえてくるので、またまたドッキリ。会話はすべて北海道弁。「そだねー」とは言ってませんでしたけど。

写真上から旧青山家漁家住宅の囲炉裏、駐在さんと記念写真、旧渡辺商店(雑貨店)内部→

人も囲炉裏も暖かい

 建物はバラエティに富んでいて、官舎や学校、公会堂、郵便局、派出所、病院、商店、工場、新聞社、蕎麦屋、理髪店、写真館、倉庫、旅館など様々。一般住宅もたくさんあって、札幌に縁の深い作家・有島武郎の旧宅もあります。ここでは書斎も再現されていて、展示されている家族写真を見ると、有島夫妻の間に長男・行光の姿が。この長男こそ、後の名優・森雅之だということを知っているのは、きっとアラカン世代の親の世代ぐらいの人たちなのでしょうね。もちろんワタシは全然知りませんでした。

 一軒ごとに凄く興味深いのですが、何しろ靴を脱がなきゃ入れないし、暖房が無いのでただ寒いとしか言いようがありません。どこか暖かいところはないの? と案内を見ていたら、温かいお茶をいただける場所を発見。それは「旧青山家漁家住宅 」。小樽市から移築されたもので、昨年扇さんの取材で取り上げたニシン御殿の本家。ものすごく大きな家で、すぐに着きそうに見えるのですが、結構遠い。

 やっとのことで中に入ると、お〜暖かい〜!それもそのはず、中央の板の間には囲炉裏が!「どうぞ、上がって下さい」というボランティアさんの誘いを聞く前からすでに体が自然と囲炉裏の近くに…。と、靴を脱ごうと思ったら隣に駐在さんらしきお髭の男性がいらしたので思わず敬礼。駐在さん、普段はレンガ造りの「旧札幌警察署南一条巡査派出所」にいらっしゃるようなのですが、あまりに寒いのでこちらに“避難”してきたみたい。

←写真上から旧樋口家農家住宅、遭難した?◯チャピン、旧小川家酪農畜舎

 囲炉裏って、実際に使った経験はないけど、何となく懐かしいですよね。ボランティアの方が「足を出して座ると暖かいよ」とおっしゃるので、遠慮なく足を投げ出すと、何となく生き返った感じ。温かいお茶もいただいて、あ〜、天国。これこそ地獄で仏、砂漠でオアシス、雪国で囲炉裏。北海道は人も囲炉裏も暖かいのね。それにしてもこのお屋敷、ただ意味もなく広いわけじゃなくて、大勢のヤン衆(ニシン漁の季節労働者)がひとり1畳ほどのスペースに寝泊まりしていたそうです。雇い主の青山家は同じ屋根の下に暮らしていましたが、使用人のスペースと目立つような区別はしないかわりに、居住スペースを1段ほど高くして、格の違いをそれとなく示していたようです。

 開拓の村は大きく分けると市街地群、漁村群、農村群、山村群に分かれているのですが、雪の中を結構歩いて農村群や山村群に行くと、本当に遭難しそうな雪の深さ。今でも冬の暮らしは大変だと思うけど、本土から開拓使が来た頃はもっと大変だったでしょうね。暖房だって囲炉裏や火鉢しか無いし、日本家屋特有の風通しの良さが仇になって、家の密閉性も良くありません。もちろんダウンもゴム長靴もなかったでしょうから、外に出かけるだけで命がけだったでしょうね。ふと気がつくと、どこかで見たキャラクターが雪に埋もれて遭難状態。

 開拓の村を後にする頃には、足先や手先が麻痺しちゃって感覚が無い状態。でも、ボランティアさんいわく「雪が降ると、お客さんが来なくても雪かきだけはしなきゃならないでしょ。それが大変」とのこと。あ〜、そうだなぁ。ワタシのように物味遊山で来る観光客は寒い寒いって騒いでりゃいいけど、ここで働く人達はシーズンオフの時でも毎日メンテナンスしなきゃいけないのね。実際、老朽化が深刻化している建物がたくさんあって、予算の都合などもあってなかなか手が回らないそうです。皆さん、暖かくなったら是非、開拓の村に行って下さいね。近くには北海道博物館もあって、そちらも面白いですよ。

札幌といえばこの味

 さてさて、こんなに“しばれる”日は、何と言ってもラーメンですよね。エヘへ、ワタシ、ラーメン大好きなんですよ。朝昼晩三食、全部ラーメンでもいいくらい。そして、北海道といえば味噌ラーメンですよね。

写真上からえびそば一幻 新千歳空港店のえびみそ・スープそのまま・太麺・味玉つき、ラーメン 空(そら)本店の味噌らーめん、狼スープの味噌らーめん、萬字醤油屋 本店の名代萬字らーめん・煮玉子・辛ねぎ乗せ、宮越屋珈琲南2条店→

 今回の取材で食べた順にご紹介しますね。まずは到着早々新千歳空港でいただいた「えびそば一幻 新千歳空港店」さんの「えびみそ・スープそのまま・太麺・味玉つき」。さすがに人気店、午後1時を回っても長蛇の列。でも、回転が早いので意外と待たずに座れます。オーダーも先に済ませるのですぐに食べられますよ。このお店、今や新宿や八重洲地下街にも出店しているのですが、やっぱり地元はちょっと違う。濃厚なえびの風味がこれでもか、と口の中に広がります。この味、えびが好きか嫌いかで評価がわかれそうですが、ワタシは好きだなぁ。

 次は狸小路のアーケードを少し南側に行ったところにある「ラーメン 空(そら)本店」さんの「味噌らーめん」。お店の外観は昭和のレトロ感出まくりという感じですが、お昼のピーク時は過ぎていたのでほとんど待たずに入れました。ラーメンは札幌味噌ラーメンの新星という感じ。「けやき」「すみれ」といった札幌ラーメンの代表店とはちょっと違いますが、文句なしにウマイです。刻み生姜と、とろとろのチャーシューがアクセント。狸小路に来て、味噌ラーメンが食べたくなったら迷わずここに来てくださいね。

 続いては中島公園近くの味噌ラーメン専門店「狼スープ」さんの「味噌らーめん」。味玉も欲しかったけど、この日は売り切れでした。こちらも深いコクとちょっと複雑な風味がくせになりそうなうまさ。近所にあったら通いたくなります。さすが味噌ラーメンのメッカ・札幌、どの店もレベルが高い。

 そして最後は味噌ではなくて醤油。新札幌駅の駅ビル、サンピアザにある「萬字醤油屋 本店」さんの「名代萬字らーめん・煮玉子・辛ねぎ乗せ」。こちらのお店、昭和25年、屋台からの創業ということで、店内は昭和ムード一色。水もサーバーはやかんで、コップはアルマイトという凝りよう。肝心のラーメンは真っ黒で一見塩辛そうですが、食べてみると意外にあっさりしていて、醤油の風味が抜群。個人的には今まで食べた醤油ラーメンのナンバーワンかも。煮玉子もゆで卵ではなくて、醤油スープに落とした感じの、文字通りの煮玉子。他にも「給食6年生」とか「給食中学生」とかアルマイトのお盆に乗ったボリュームたっぷりのセットメニューもあって、値段もリーズナブル。

 ところで、ラーメンを食べた後、コーヒーが飲みたくなる人って結構いますよね。札幌でコーヒーといえば「宮越屋珈琲」さん。新橋や恵比寿にもあるので、ご存じの方も多いかと思います。今回絶対にご紹介したいと思ったのは「南2条店」さん。こちらのお店、何がユニークかと言えば、客席が地下にあって、しかもすべてがボックス席。そして、ほぼ完全に個室状態になっているということ。

 仕切りを高くしてプライバシーを確保するというインテリアは、最近人気の「星乃珈琲」などでもお馴染みですが、こちらは完全に壁で隔離されているので、物理的に他のお客さんと目を合わせることがないんです。Wifi環境も整っているので、ちょっとした事務処理なんかも落ち着いてできそう。控えめなBGMはジャズ。コーヒーはマイルドとフレンチの2種類で、マイルドでさえかなり濃厚。最近京都の取材で覚えた、関西系の深煎りストロングタイプが好きになったワタシ、このコーヒーはかなりストライク。しかもポットサービスなのでお得感もあります。

 そんなわけで、最後は雪まつりならぬラーメン祭りみたいなレポートになってしまいましたが、冬の札幌を堪能した3日間、それでもまだ知らない場所やラーメン屋さんがたくさんあります。今度は雪が溶けて暖かくなって、春の花々が一斉に咲き出す5月や、梅雨の心配がない6月にでも再訪したいなぁ。(おわり)