第一章:寒い!でも見に行きたい

 季節ごとにテーマを決め、ゆったりしたスケジュールで古都を歩く。日本の原風景を求めて…。そんな旅こそ“アラカン世代”にふさわしいのではないだろうか。第20回目は、もうすっかりおなじみの元宝塚歌劇団娘役・春花きららさんが案内する12月の神戸・大阪・京都。

意外と地味な?異人館街

 夏は暑い、冬は寒いというのはわかりきったことなのですが、今年の冬は特別寒いですよね。体調を崩しやすい時期、インフルエンザにも要注意ですよ。出かける時は暖かい格好がマスト。パロレッタのサイト(クリック)ならお洒落で実用的なアイテムが揃っていますので、大切な人へのクリスマスのプレゼントにも最適…って、前回に懲りずにまた宣伝しちゃいました。春花きららです。

 今回のテーマは、祇園祭以来の神戸・京都、そして大阪にも足を伸ばしての「冬のイルミネーション三昧」。第三章では京都の本格町家や隠れ家カフェなど、迷わずに行けたら自慢できそうな、地元通だけが知る“穴場”をご紹介します。とはいえ、実際に行くとかなり高い確率で迷いそうなので、前日の予習をお忘れなく。

 関西でイルミネーションといえば、やはり22年の歴史を誇る「神戸ルミナリエ」ですよね。近年は予算不足やクリスマス商戦との兼ね合いから会期もだんだん短くなっていますが、それでも国内有数の規模と美しさは感動必至。ワタシは10年以上前に一度見たきりですが、大人になった目で見ると、新たな発見があるかも。

←上から「お気軽健康café あげは。」のランチ、北野異人館街(英国館・仏蘭西館)

 そのルミナリエ開始までまだ時間があるので、まずは神戸の街をお散歩。クリスマスシーズン真っ盛りということで、たぶん北野の異人館街あたりはさぞやキラキラムードになってるだろうな〜と期待して、トアロードの坂をテクテク。神戸って南北は基本的に坂道なんですよね。こりゃ思いのほか体力がいるわ、ということで、まずはランチ。この日選んだのは「お気軽健康café あげは。」さん。店名に「。」が付くって珍しいですよね。「モーニング娘。」とか「藤岡弘、」みたいな感じ? 画数とかにこだわったのかな? 

 開放的で日当たりの良い奥のスペースに着席して、ランチメニューから「淡路鶏とお豆のチーズトマト煮 根菜ロースト」をチョイス。ほどなく運ばれてきたプレートを見て思わず歓声。色鮮やかで、それもみんな野菜本来の色。赤いビーツは知っていましたが、黄色いビーツは見るのも食べるのも初めて。パープルスイートロード(紫芋)もホクホクで甘さ抜群。こちらのお店、野菜中心のおかずと、玄米、十穀米から選べるご飯がポイントで、白味噌を使った甘めのお味噌汁もグッド。値段は1620円とちょいお高めだけど、契約農家の野菜とお米しか使わないということなので、野菜不作の昨今、原価は高そうだわ。

 お腹がいっぱいになったところで、トアロードをさらに上がって北野通りを東へ。あれれ? 想像したよりクリスマスムードは希薄。個々のお店はそれなりに頑張って飾り付けているのですが、肝心のストリートそのものが“平常営業”の空気。これは期待はずれかな…と思って歩いていくと、やっと見つけましたよ。英国館から仏蘭西館のあたり、いわゆる「洋館長屋」の一角にサンタさんがゾロゾロ。やっぱりクリスマスはこうでなくちゃ。1年に1度きりなんだから、派手すぎるくらい派手でちょうどいいんじゃないかな。

北野でタンゴレッスン

 とはいえ、やっぱり街全体の印象は地味。これはこれで正しいクリスマスなのかも、なんて妙に自分を納得させながら北野坂を下って、異人館通りを西へ。この通りには可愛い雑貨屋さんやお洒落なレストランがあって観光地感が薄いぶん、ちょっと大人の雰囲気。マトリョーシカが並んだ可愛いロシアの雑貨屋さんなんかを覗きながら歩いていたら、手すりにツタの絡まる、いかにも年季物の塗装が禿げた階段が目に飛び込んできました。その下には「あなたの体験したことのない世界が(正確じゃないけどそんなようなニュアンス)」という怪しげな一文。階段の先、ビルの2階を見ると「タンゴカフェ」と書いてあります。カフェならちょっと覗いてみるか、なんて軽い気持ちで開けたドアの先。そこには、異次元の空間が待っていたのでした…。

 照明を落としたムーディーな店内は、奥と手前にテーブル席があるだけで、中心はダンスフロア。背筋のピンと伸びた渋いお髭の熟年紳士がカウンター越しから迎えてくれます。なるほど、ここはタンゴを踊る場所なのね。コーヒーを注文してしばし周囲を眺めていると、壁に飾られたレコードや写真、絵画の数々が独特の雰囲気。時間をかけて淹れていただいたメチャクチャ美味しいコーヒーを味わっていると、「折角ですから、踊ってみましょうか」とマスター。

 えっ? ここで? いきなりタンゴ? ワタシ一応、宝塚の出ですから、ダンスは一通り習ったのですが、踊るのは本当に久しぶり。「大丈夫。基本の基本から教えますから」とマスター。「アルゼンチンタンゴというと今は動きの激しいアクロバットみたいなイメージになっていますが、本当はこういう小さなフロアで静かに踊るものなんです」

 そんなわけで、いきなり神戸でタンゴレッスンの開始。歩き方(この歩き方というのが実は一番大切で、形になるまで20年近くかかるそうです)から始まって一通り基本的なステップを教わったら、いざ実践。その様子は動画で見ていただくとして、タンゴは男性がリードするものなのですが、やっぱり熟練した方は違います。力まずに自然に合わせていける。

 こちらのマスター、というよりキタノサーカス主宰の福野さんは、アルゼンチンの作家、ホルヘ・ルイス・ボルヘスの作品に惹かれてブエノスアイレスに渡り、そこでタンゴに魅せられたのだそうです。こうしたアルゼンチンタンゴ専用のダンスサロンを「ミロンガ」といって、こちらのミロンガには本場アルゼンチンからもたくさんの有名人がやってくるそうです。そしてその中のお一人がこうおっしゃったとか。「ここにはタンゴの妖精が住んでいる」

キレイとしか言いようがない

 そうこうしているうちに日も暮れて、神戸ルミナリエの点灯時間が…。何しろ当初よりは落ち着いたとはいえ、平日でも20万から30万人、土日なら50万人以上の人出になる大イベント。現地までまっすぐ行けるわけではありません。元町駅から一方通行のルートが決まっていて、あとは何度か迂回を繰り返しながら人の波に流されるように会場に入ります。

 現在、全国800箇所以上で開催され、すっかり冬の風物詩として定着したイルミネーションですが、その火付け役になったのがこのルミナリエ。それまでは街路樹を電球で飾るといった、景観の添え物に過ぎなかったものを、電飾そのものを主役にするという逆転の発想で、幾何学的な模様をアーチ状に配列(ガレリア)するという独特のスタイルを確立。以来、ルミナリエの影響を受け、さまざまな工夫を凝らしたイルミネーションが各地に出現するようになりました。

←神戸ルミナリエの会場風景

 当初は白熱電球を使用、その後は関西電力の要請もあって消費電力の少ないLEDに切り替わりましたが、実は2014年に一度だけ白熱電球に戻したことがあるそうです。それは22年前、ルミナリエ開催を後押しした本来の意義に由来します。それは、阪神・淡路大震災後の爪痕がまだ生々しい頃の「復興神戸に明かりを灯そう」という思いでした。

 LEDの灯りは明るくてきれいだけど、どこか冷たい。暖かみのある白熱電球を使うことで、追悼と復興への灯火という原点に帰るべきだということで、この年だけは白熱電球が復活。でも、翌年以降はまたLEDに戻りましたとさ…。というわけで、ルミナリエのミニ・ヒストリーはこれでおしまい。

 一見物客であるワタシとしては白熱電球でもLEDでも、どっちでもいいんですけどね。理屈抜きにとにかくキレイ。ただただキレイという言葉しか浮かんできません。一度見れば十分という人もいるけど、可能ならワタシはどんなに寒くても毎年見にきたいな。だって、最初のルミナリエの年に生まれた子が、もう22歳になるわけでしょ。これはもう、すでに神戸という街の一部になっているイベントだと思うんです。まぁ、昼間だったら人を見に来たみたいでウンザリするかもしれないけど、夜だからイルミだけ見ていればそんなに気にならないし…。

元祖ルパンに酔いしれる

 その後、寒い中をトコトコとメリケンパークまで歩いて行って、話題の「世界一のクリスマスツリー」を見に行ったのですが、これはちょっとなぁ…。たぶん、キチンとしたコンセプトがあった上で、あ〜ゆ〜(そっけない)展示になったのでしょうけど、コンセプトは立派でも、やっぱり多くの人に見てもらうには何かしらエンターテインメントが必要なんじゃないかな。あっ、関係者の皆様、生意気なこと言ってゴメンナサイ。

 仕切り直し?ということで、この日の夕食は三宮の高級串揚げ店で、黒毛和牛だのアワビだのフォアグラだの、普段食べつけないものばかり大奮発。でも、一番気に入ったのは箸休めで添えられていた生の小ねぎ。これがお酒に合うんだ。食べすぎて翌朝口がネギ臭かったけど…。そういえば見送りに来て下さったお店のお姉さん、パロレッタの洋服買いますなんて言ってくれたけど、本当に買ってくれたかなぁ…。

 その後、電話で営業を確認してから、ホテルからも串揚げ屋さんからも至近距離、アラカン編集長お勧めのお店に。店名は「アンクルチャーリー」。中山手通りに面した雑居ビルの6階にあります。

 店主のチャーリー・コーセイさんは、知る人ぞ知る神戸出身のミュージシャンで、その名を有名にしたのは初期「ルパン三世」の主題歌。これはもう、アニメファンとしては神戸に来たら絶対に外せません。ワタシの時代にはルパンといえばコミカルなイメージですが、当初のTVシリーズは純ハードボイルドで「中学生以下の視聴層は全くターゲットにしていなかった」という完全に大人向けのアニメだったそうです。

上から動画「我が心のジョージア」と「ルパン三世愛のテーマ」、チャーリーさんと2ショット、動画「ルパン三世のテーマ」→

 ところが、結果は散々で、記録的な低視聴率だったため、その後ルパン三世は子供向け番組にシフトしていきます。そこで白羽の矢が立ったのが、今ではアニメ界を代表する巨匠となった高畑勲さんと宮崎駿さん。このお二人の尽力によって徐々に子供向けに修正されていったルパン三世。その後劇場用作品として「カリオストロの城」という名作が生まれたのは、皆さん御存知の通りです。

 しかし、現在50〜60代のアラカン世代、つまり当時青春真っ盛りだった人たちの胸には、最初のルパンとチャーリーさんが歌った主題歌が強烈に刻まれているらしく、中にはチャーリーさんの生歌を聞いて涙を流す人もいるそうです。

 店主としてのチャーリーさんは気さくでオヤジギャグ連発のとっても面白い人なのですが、いざ歌い出すと別人のように…。3曲フルバージョンの貴重な生歌は動画で楽しんで下さいね。ワタシも人前で歌う仕事をしていますが、本物のプロってこういうものなんだって、実感しました。ホントに圧倒されます。興奮覚めやらぬまま、ベストCDもTシャツも買わせていただきましたよ。

 その後、地元の常連さんが加わって、昔の神戸の話や、チャーリーさんの青春時代の話で盛り上がり、ついつい飲み過ぎちゃいました。それにしてもチャーリーさんの神戸愛、凄いなぁ。
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