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季節ごとにテーマを決め、ゆったりしたスケジュールで古都を歩く。日本の原風景を求めて…。そんな旅こそ“アラカン世代”にふさわしいのではないだろうか。21回目は早くも4度目の登場、元宝塚歌劇団娘役・春花きららさんが案内する雪まつりの札幌界隈。
2月といえば寒さのピーク。特に今年は全国的に大雪が降って、さまざまな被害も…。体は凍えるし、心も憂鬱になりがちなこの季節、皆さんはいかがお過ごしですか? 春花きららです。そんな極寒の季節でも、お隣の韓国と、北の都札幌だけは熱気ムンムン。韓国はもちろん平昌オリンピック、札幌はご当地最大のイベント、雪まつりですよねぇ。
雪まつり、ず〜っと見たかったんですよ。冬が来るたびに行きたい、行きたいと思いながら機会に恵まれず、今回が初体験。でも、雪国とは縁のない人生を送ってきたワタシ、日本で一番寒い2月の北海道に耐えられるのか。そもそも雪国の冬とはどんなものなのか、もしかしたら大雪が降ったら市街地にいても凍死するんじゃないか等々どうでもいいことを考えていたら、北国出身のアラカン編集長いわく「分厚い下着と分厚い靴下と手袋、マフラーは必須。当然だけどハイヒールとか革靴はNG。使い捨てカイロも忘れずにね」
フン、そのくらいならワタシだってわかりますよ。確かに東京で雪が降るたびに、ハイヒールでコケて怪我する人がいますけど、なんせ行き先は札幌ですからねぇ。雪の量もハンパないでしょうし、ワタシだってお洒落より安全を優先しますって。足下はモコモコのムートンブーツ、重ね着の上にダウンで完全武装。カイロは現地調達するとして、顔だけは防ぎようがないなぁ。ワタシ、寒くなると必ず“赤鼻のトナカイ”になっちゃうんですよ。普段はマスク付けてればいいとしても、撮影があるからなぁ…。
そんな不安?と期待が入り交じる中、羽田発札幌行きの飛行機はあっという間に新千歳空港に到着。さすが北の玄関口、大勢の観光客で賑わって寒いどころか暑いくらい。特に東南アジアや台湾から来た人は初めて見る雪景色にテンション高め。そんなとこ撮ってどうすんだ〜とツッコミたくなるくらい、ただ雪が積もっているだけの場所をスマホでカシャカシャ。実のところワタシも、これから見るであろう一面の銀世界を想像して結構ハイテンションだったのですが、そこは抑えて、涼しい顔を装いながら札幌行きの電車に。
上からサッポロビール園「開拓史館」、博物館内にある巨大な仕込み釜(ケッセル)、お楽しみの試飲タイム→
新千歳空港から札幌駅まではJRの快速エアポートで50分ほど。初日は遅めの到着だったので、雪まつり見物は昼間より美しいと評判の夜に行くことに。その代わり、駅のコインロッカーに荷物を預け、以前からチェックしておいたサッポロビール園に直行。駅から近いのでタクシーで約7分。1000円以内で行けます。
こちらでのお目当てはサッポロビール博物館の見学(要予約・500円)。出来たてビールの試飲がもれなく付いてくるんですよ。ただ、さすがに北海道。ビール園と言ってもメチャクチャ広い。その広大な敷地の中で最初に目に飛び込んでくるのはレトロなレンガの建物。建設当初は製糖工場、その後製麦工場として使われていたそうで、その名も「開拓史館」。開拓のシンボル、赤い星のマークが誇らしげです。
ジンギスカンのレストランや売店もある一階のカウンターでパスを受け取ると、三階のスタイリッシュなウェイティングルームへ。いやが上にも期待が高まります。ほどなくして案内をしてくれる女性が登場。その後、映像での説明に入るのですが、この間の仕掛けや展開がドラマチックで面白いですよ。全部言っちゃうとつまらなくなるので細かい説明は省きますが、日本人初のビール製造技術者は欧州に渡った密航者だったとか、キリン、アサヒなど各ビール会社の合併や独立の話、明治天皇のエピソードなど、興味深いエピソードがてんこ盛り。でも、参加者の皆さんはワタシも含めて心ここにあらずと言った感じ。そう、早くビールが飲みたい…。
そんなわけで待ちに待った試飲タイム。最後に一階でいただけるのが、ここでしか飲めないという、明治時代の製造方法を再現した限定ビールと現在の作りたて工場直送生ビールの2杯! 解説もおつまみも付いてこれで500円? さすが大企業、やることが太っ腹です。肝心の味ですけど、ワタシはもう断然“再現ビール”。コクがあって深い味わい。こちらがなければ工場直送が最高だったのでしょうけど、“再現ビール”を飲んでしまうと、現代のビールはすっきり爽やかなのに何か物足りない感じ…。あっ、これはあくまでワタシの好みですからね。皆さんは実際に現地で確かめて下さいね。
ほろ酔い気分で少し温まったけど、やっぱり外は寒いかな〜と思いながら駅から時計台裏のホテルに向かって歩く途中、地図を見ていたら、ほとんど外に出なくともたどり着く方法を発見。そう、札幌駅からすすきの方面に続く長い地下道があるんです。正式名は「札幌駅前通地下歩行空間」。いかにもお役所チックな名前ですが、愛称は「チ・カ・ホ」。このチカホ、入り口と出口さえ把握していれば凄く便利ですよ。エレベーターもあるので、大きな荷物でも安心。おかげさまで凍えずにチェックインできました。
お部屋で荷物を広げていたら、突然大きな鐘の音が。これは時計台の鐘で、一時間ごとに鳴るようです。そろそろ日も暮れてきたので、ひと休みしてから雪まつり見物へ。会場の大通公園までは目と鼻の先だけど、今度は地下に潜るわけにはいかないので、イヤーマフもつけて、きょう一番の完全武装。
会場はすでにライトアップされていて、華やかな雰囲気。歩行者は一方通行なので、まずは西側のテレビ塔付近から東に向かって見物することに。なにしろ会場の大通公園は東西に1.5キロもあるんです。もともとは火防線、つまり火災時の延焼を防ぐために設けられたスペースなのですが、この規模はさすが北海道ですよね。イルミネーションで美しくお化粧されたさっぽろテレビ塔は、東京タワーと同じ「塔博士」内藤多仲の設計です。このテレビ塔をバックに設置されたのが「道新 氷の広場」。今年は蝦夷地を探検した松浦武四郎が北海道と命名してから150年ということで、記念に氷のバースデーケーキが作られたそうです。デザインは有名パティシエが担当。よく見るとエゾシカやヒグマ、エゾリスといった北海道を代表する動物が…。
←上から「道新 氷の広場」、「ファイナルファンタジーXIV“白銀の決戦”」と動画、「ストックホルム大聖堂」と一般参加の「ミニオンズ」
区画をひとつ移動すると、大きなジャンプ台。「あれれ、何の練習? オリンピックはもう始まったでしょ」なんて近くを通ったオバサマが言ってましたけど、これは「白い恋人 PARK AIR」というアマチュア用の大会会場。こういった施設を間近で見る機会がないので、大迫力にビックリ。こんな高さから滑るなんて命知らずだわ。隣の4丁目には、これもド迫力の雪像。これは「ファイナルファンタジーXIV“白銀の決戦”」と題された今回の目玉展示のひとつで、何とプロジェクションマッピングで大ヒットゲームの世界を立体映像と大音響で再現しています。どんな内容かは動画で見て下さいね。個人的には、この雪像が今回のベスト。
他にも5丁目には台湾の「旧台中駅」、7丁目には「ストックホルム大聖堂」、8丁目には「薬師寺大講堂」(こちらでもプロジェクションマッピング実施)と大規模な雪像というより“雪の建築物”が続きます。歴史を紐解けば、雪まつりが始まったのが1950年ということですから、すでに68年! 当初は会場も7丁目のみで、札幌市内5校の中高生が6基の雪像を作ったのが始まりだとか。現在のような大規模な雪像が作られるようになったのは1953年の第4回、当時の高校生が15メートルの大雪像を作ったのが最初だそうです。
54年からは一般市民も参加、翌55年に陸上自衛隊が参加するようになってからは雪像も本格化。今回の精巧な「薬師寺大講堂」も陸自の制作です。まさに雪の芸術ですね。ちなみに雪像制作の名目は「野戦築城訓練」なのだそうです。イルミネーションやライトアップで夜間も見られるようになったのが86年から。
そんなわけで、見ている方は楽しいけど、作る方の苦労は大変なようです。準備は秋ごろから、テーマに沿って精密な模型を作るのだとか。一番大変なのは雪集めで、純白の雪が必要なため、札幌近郊のサッポロさとらんどやモエレ沼公園、石狩湾新港などから集められる雪は5トントラックで約6000台分。完成までほぼ一ヶ月を要するとか。
この日も雪がチラついていましたが、折角作った雪像も雪が積もってしまうと原型がわからなくなってしまうし、日中暖かすぎても溶けてしまうので、会期中のメンテナンスも気が抜けないそうです。実際、今回の展示でも溶けてしまって倒壊の危険性があるということから壊されたものもあったようです。
10丁目の「手塚治虫 生誕90周年記念 オールスターズ」までが、企業、団体やスポンサーによる、いわばプロの作品。アトムにブラックジャック、レオ、サファイアといった面々はワタシの世代よりアラカン世代の皆さんのほうが懐かしいのでは? 宝塚の熱狂的なファンだったという手塚先生、ワタシのようなOGの端くれでも嬉しいですよね。その先の11丁目は各国参加の国際チーム、12丁目が市民参加による作品ということで、雪像のクオリティーはどうしても落ちますが、ほのぼの感はアップするので、歩き疲れ、寒さで冷え切った心を温めてくれますよ。中には、雪に埋もれちゃって何だかわからなくなったものも…。
写真だけ見ていると、こうした雪像がただ続くように思うかもしれませんが、実際の会場には飲食や休憩用のさまざまなスペースがあって、冷えた体を温めることができます。本格的な料理を出すテントもあれば、カップラーメンだけを提供するブースや、大通公園名物の焼きとうきびも。最近敬遠されがちなスモーカーの方にもお洒落な喫煙スペースが用意されています。お土産の売店もさまざまで、変わったところではマトリョーシカの売店も。何だか前回の神戸を思い出しちゃった。
さて、雪まつりと言っても大通公園だけが会場ではないんですよ。東区の「つどーむ会場」では大規模なスライダーなど子供も大人も楽しめるアトラクションがいっぱい。翌日の昼に出かけたすすきの会場では、専門家が腕を競う美しい氷の彫刻が60基。天気のいい日には、まばゆいほどキラキラと光って幻想的。見る人によっては、こちらの方がインパクトがあるかも。
そして初日の締めくくりはやっぱり海の幸。北海道に来たらやっぱりこれでしょ。何しろ寒い中、大通公園を東の端から西の端まで歩いて戻ってきたので、顔が固まっちゃって、言葉も出てきません。北国の人は無口だってよく言うけど、何となくわかる気がする。
この日選んだのは地元の方が集まる「居酒屋ふる里 札幌総本店」さん。ホテルから徒歩3分の好立地。とはいえ、雑居ビルの4階にあるので、気をつけて探さないと通り過ぎちゃいそう。店に入ると意外なほど広くて、居酒屋独特の熱気で一気に寒さを忘れます。壁にはメニューの短冊がズラリ。
上から八角、ホッケ、ニシンの刺し身、生牡蠣とたちかまの刺し身、毛ガニ→
まずは博物館ですっかり味をしめたサッポロビール、しかも当地限定のサッポロクラシックで乾杯。今日は寒さに耐えてよく頑張った。自分を褒めてあげなきゃ。それにしてもサッポロクラシック、喉越しすっきりで超ウマイ。今までのビールの概念が変わりそう。さ〜て、落ち着いたところで、折角札幌に来たんだから、ここでしか食べられないものを注文しなきゃ。それを探すのに一番手っ取り早いのは、聞きなれない名前を探すこと。
まずは「たちかま」の刺し身。これは全く初耳。他に「八角」の刺し身、これも未知数。ついでに「ホッケ」と「ニシン」の刺し身も注文。これは絶対本州では食べられないでしょ。好物の生牡蠣はオマケに。
結果は大当たり。どれもこれもみんな美味しい。ちなみに「たちかま」とはタラの白子を蒲鉾にしたもの。「八角」は見た目は深海魚みたいでちょっとキモいけど、味は上品。柳川のエイリアンを思い出しました。ホッケとかニシンはいかにも油っこそうなイメージがあるけど、臭みも全然なくて食べやすい。これはおすすめ。
自分のオーダーに気を良くしたワタシ、奮発して毛ガニも注文しちゃいました。ひとりでまるごと一杯食べるのはこれが初めてかも。味が濃くてウマイんだな、これが。やっぱり北海道のカニは違うなぁ。さらに調子に乗ったワタシ、イクラとウニを追加注文して、ついでにご飯セットも。もうわかりました? そう、豪華絢爛、北の三色丼ですよ。カニの身はカニ味噌にいっぱい浸して、ウニとイクラを全部乗せて一気にかきこむ! これはもう、食べる前から美味しいに決まってます。あ〜、こんな贅沢していいんだろうか。普段の食生活を考えると夢のよう。
地酒も熱燗でチョロっといただいて、こわごわ会計に行ったら、拍子抜けするほどの安さ。これが東京だったら3倍ぐらいするだろうなぁ。雪さえ降らなければ札幌に住むのに…。それにしても今回の雪まつり、初日から最高でした。豪華な海の幸はこのくらいにしておいて、明日からは本領発揮のラーメン祭りだ! 明日も食べるぞ〜!
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