第一章〜ひがし茶屋街でタイムスリップ

 季節ごとにテーマを決め、ゆったりしたスケジュールで古都を歩く。日本の原風景を求めて…。そんな旅こそ“アラカン世代”にふさわしいのではないだろうか。第5回目は、宝塚歌劇団の元娘役トップスター・舞風りらさんが案内する冬の金沢。

来春には新幹線も

 はじめまして。舞風りらです。

 2006年まで宝塚歌劇団で活動してました。元宝塚って言っても、知ってる方はよ〜く知ってるし、知らない方はぜんぜん知らないんじゃないかと思います。こちらに簡単なプロフィールが載っていますので、「舞風りらって何者?」という方はぜひご覧になって下さいませ。

 今回はアラカン編集長さんから「冬の金沢をレポートするように」というご依頼をいただいたのですが、正直、ワタクシ東京生まれ・東京育ちの上に、宝塚時代に巡業で訪れていたとしても、ほとんどがホテルと舞台との往復で、日本全国あちこち飛び回ったにしては、悲しいことにその土地の記憶がほとんど無いんです。

 そんなわけで恥をしのんで編集長に聞いてみました。「あの〜、冬の金沢って、何があるんですか?」。すると編集長「まずはカニでしょ。これは冬しか食べられないからね。それにのどぐろ、これも脂が乗ってて美味いよ。そして冬ならではの美しい雪景色だな。特に兼六園、武家屋敷、茶屋街は外せないね。舞風さんは一応女性だからスイーツとか雑貨にも興味あるでしょ。金沢はすんごくレベル高いよ」

 「一応女性」とゆ〜言い方にはちょっと引っかかりましたけど、うひょ〜、美味しいものには目がないワタクシ、これを機会に新人グルメリポーターとしてデビューしちゃおうかな。でも、雪景色っていうのはどーなんだろ。肝心の雪がふらないことには…。すると編集長「大丈夫。天気予報が当たれば、2日目から雪が降るはず」

 実を言うとワタクシ、雪が大好きなんですよ。チラチラ降ってきただけで大コーフン、積もればさらにコーフン。前世は雪女じゃなかったかって思うくらい好き。でも編集長「ただし、雪が降りすぎると、帰りの飛行機が飛ばなくなるかも…。その時は自力で帰ってきてね」(^_^;)

 東京から金沢までの行き方ですが、羽田空港から飛行機で約1時間。小松空港から金沢駅西口まで特急バスで約40分。へぇ〜、意外に近いのねなんて感心していたら「来年からは新幹線で行けるよ」と編集長。そうそう、忘れてました。北陸新幹線・長野ー金沢間が2015年に春開通予定で、東京から乗り換えなしで2時間28分。待ち時間なんかを含めると空の便で行くのとほぼ同じぐらいかな。でも、東京駅から乗り換えなしっていうのはすごく便利ですよね。どちらかと言えば飛行機が苦手(特に離陸するとき)なワタクシには朗報かも。

「昔のカツ丼」にビックリ

 というわけで、いよいよ出発。羽田発10時5分のJAL便で一路、小松空港へ。バスで金沢市内に入り、ホテルに荷物を預けます。初日のターゲットは「ひがし茶屋街」。正しくは東山ひがし地区と呼ぶそうです。金沢は第二次大戦中に空襲を免れたことから、古い建物や街並みがそのまま残っていて、国の重要伝統的建造物群保存地区にも指定されています。特に茶屋様式という町家が数多く保存されている地区が、こちらの「ひがし茶屋街」と「西茶屋街」、そして「主計(かずえ)町」と3箇所あって、いずれも観光名所になっています。

 市の中心部、南町にあるホテルからタクシーで数分、浅野川大橋を渡る手前に主計町、渡った東側にひがし茶屋街があります。浅野川の東側だから「ひがし」で、犀川の西側にあるから「にし」なんだとか。ちなみに主計町は加賀藩士・富田主計の屋敷があったからだそうです。実はこれ、以前は尾張町だったのが、地元の皆さんの強い希望で1999年に復活した町名なんですって。旧町名が復活した例としては全国で初めてだったそうです。

 そんなウンチクはさておき、ひがし茶屋街に着いたのがちょうどお昼だったので、お腹がすいてきました。街の中心部にある広場でタクシーを降りると、ちょうど目に飛び込んできたのがシックな洋館。写真でも撮ろうと近づくと、何とコチラ、洋食屋さんではありませんか。早速ショーケースのメニューをチェック。

 お店の名前は『自由軒』。明治42年創業、今のご主人で4代目という金沢では超有名なお店なんだそうです。食いしん坊のワタクシはさんざん悩んだ挙句、小ぶりなオムライスにコロッケ、サラダ、お味噌汁がついたプレートセット995円をオーダー。でも、同行したスタッフさんが注文した「昔のカツ丼1,365円」っていうのもミョーに気になる。「昔のカツ丼」って何?

 あれこれ想像する間もなく、二品が登場。このオムライス、見た目は普通。でも一口食べてみると何か違う。美味しいんだけど、何かが違う。あれれ、卵の下がチキンライスじゃない。ケチャップじゃなくてお醤油の味。そうそう、例えるなら和風チャーハン。どう表現すればいいのか、初めての味。ちょっと驚いたけど、好きだな〜、この味。

 でも、もっと驚いたのは昔のカツ丼。蓋をあけるとキャベツとキュウリがコンニチワ。肝心のカツはどこにあるの? そこでスタッフさんが野菜をどっこいしょと除けると、いました、いました、カラっと美味しそうなカツが。ああ、これってソースカツ丼のサラダのせなのね、なんて納得してたら、スタッフさん「あ、これトンカツじゃないですよ。ビーフカツレツだ!」というわけで二度びっくり。詳しくはわかりませんが、この街で働く藝妓さん達のリクエストで、忙しくてもさっと食べられるカツライスということで、こんな形になったんだとか。それにしても独創的。金沢恐るべし…。

 お腹いっぱいになったところで茶屋街を散策。この日はあいにくの雨でしたが、その分街並みがしっとりしていい雰囲気。ホント、絵に描いたみたいにキレイ。この街ができたのは文政3年(1820)ということですから、今から194年前。江戸時代の日本ってキレイだったのね。まわりに電柱とかビルがないから、ここひがし茶屋街は純粋にタイムスリップ感が味わえます。

 それはそうと「そもそもお茶屋さんってナニ?」という疑問がフツフツと沸いてきたので、案内板を頼りに「志摩」といういかにも格式の高そうなお茶屋さんを見学することに。いただいたパンフレットを読むと「お茶屋には主に上流町人や文人たちが集い、遊びといっても琴、三絃、笛に舞、謡曲、茶の湯から俳諧など多彩で、客、藝妓ともに幅広く高い教養と技能が要求された」とのこと。う〜ん、高級な社交場って言っても、今の銀座のクラブなんかとはちょっと違うのね。

 こちらの「志摩」さん、文政3年当時のままということで、国の重要文化財にも指定されています。気が付かないとそのまま通り過ぎそうな部分、例えば欄間のデザインとか釘隠しとか、そういう目立たないところが凄く凝っていてゴージャス。藝妓さんたちがメイクなんかに使っていた「みせの間」には食器や櫛、かんざしが飾られていて、これがまた凄く細かいの。置いてあった大きなルーペで覗くと、日本の職人さんって凄いな〜と感心させられる、繊細で優美な細工の数々。つい興奮してルーペで遊んじゃいました(写真)…。たはは。

“カワイイ”の洪水

 他のお茶屋さんもそれぞれステキなのですが、一歩足を踏み入れると、土産物屋さんだったり、お麩屋さんだったり、お菓子屋さんだったり、金箔のお店だったりとさまざま。特に土産物屋さんは乙女ゴコロをくすぐるカワイイもので溢れていて、お土産なんか選んでいると、誰々にはコレとか、誰々にはアレとか、いろいろ悩んじゃって時間を忘れそう。

 そして、ちょっと大通りを離れると、昔ながらの風情を残すお米屋さんとか「コールドパーマ」なんて看板が懐かしい昭和レトロな風景にも出会えるんです。こういう風景ってアラカン世代の人にはたまらないんじゃないかな。東京の下町にも少しは残ってるけど、どんどん少なくなってきてますよね。

 あっという間に時間が過ぎて、美味しいきんつばなんかを試食して買い込んでいたら、雨のせいか外はどんどん薄暗くなってきたので、路地裏のお洒落なカフェでティータイム♪ 「ゴーシュ」というお店で大好きなハーブティーをいただきました。ワタクシ、お茶大好きなんですよねぇ。ラベンダーとか数種のハーブをブレンドして、自宅でも楽しんでます。あっ、こちらのお店、サイフォンで淹れるコーヒーも美味しそうでしたけど…。

 ふと気がつけば、お菓子にお茶に金箔グッズ(ワタシは買わなかったけど、金箔のケーキとか金箔の美顔パックまであってビックリ)にカワイイ便箋などなど、初日からいろいろ買い込んじゃって、手荷物だらけ。この調子だとまだまだ荷物が増えそう。明日からが思いやられます。ひがし茶屋街を満喫して、後ろ髪を引かれながらタクシーでホテルへ。チェックインを済ませ、ディナータイムまで部屋でひと休み。でも、その前に買い込んだお土産をベッドに広げて、一人悦に入るワタシ。旅の目的っていろいろあるけど、やっぱり女子ならお買い物よねぇ。にゃははは(=^・・^=) 誰が何と言おうとこれだけは止められないっ!

「東京なんて田舎だよ」

 さぁ、いよいよディナータイム。編集長が言っていた冬の金沢最大のお楽しみ、カニとのどぐろ。そして他にもいろいろありそうな金沢の美味しいものを求めて、出発前にスタッフさんが予約していたお店に向かうことにしました。お店の名前は「食事処 いずみ野」。なんでも、地元では凄く人気のあるお店で、新鮮な高級素材を使っているのに、値段がとてもリーズナブルなのだとか…。

 お店はせせらぎ通り沿いにあって、気が付かないと通り過ぎてしまいそうな、普通の居酒屋さん風。おそるおそる引き戸を開けると、いきなり「おっ、今日のお客さんは美人ばっかりだね」とご主人。ふと見ると若い女性の先客が…。お世辞をニャハハと受け流しながらカウンター席に座ると、なにやらすご〜く美味しいものが食べられそうな予感。ワタシはそんなにカニ好きではないのですが、編集長の言葉を思い出して思わず質問。「きょうカニ、あります?」

 するとご主人、ニッコリして「あるよ。しかも黄金ガニだ」。その時は黄金ガニって何?って思った程度だったのですが、実は黄金ガニというのはズワイガニのオスと紅(ベニ)ズワイガニのメスから生まれたカニで、1000匹に1匹ぐらいしか獲れない、希少なカニなんだそうです。でも、ワタシの目はお通しのタラコ煮に釘付け。何を隠そう、ワタクシ、メチャクチャ魚卵好きなんです。

 「東京から来た? 田舎からわざわざ…」と言うご主人。これは、少なくとも料理に関して言えば、金沢のほうが遥かに洗練されていて都会だよっていう意味。この日の料理は「おまかせ」でお願いしたのですが、出てくるもの出てくるものすべて美味しくて目からウロコ状態。金沢ってカニだけじゃないのね。一瞬のうちに色が変わるワカメのしゃぶしゃぶとか、穴子の稚魚・のれそれとか、驚くほど甘い甘エビとか、もちろん、のどぐろも黄金ガニも最高でした(出る頃にはもうお腹いっぱいだったけど…)。ご主人と奥様のお話も面白くて、最期までずっと笑いっぱなし。帰り際にはお土産までいただいて、あ〜もう初日からこんなにシアワセだなんて、金沢サイコー!(・∀・) <第二章へ>