第二章〜百万石の雪景色にウットリ

 金沢の旅も2日目。朝起きて窓のカーテンを開くと、粉雪が舞い降りて、街はうっすら雪化粧。編集長の言う通り、というより天気予報が当たったのね。“雪女”のワタクシとしては朝からハイテンション。すぐに支度をして出かける準備♪ でも、雪が降ってるってことは外は寒いってことよね。イマイチ寒さの度合いがわからないので、とにかく着込んでいくことに。

 ワタクシなりに完全武装したつもりでも、外に出るとやっぱり寒〜い(*_*) 雪はどんどん降ってきて、歩いていると目に入ってくるし、気をつけて歩かないとツルン、ドテンということになりそうなんだけど、それでも何となく楽しい♪ 街がどんどん幻想的になっていく感じ。きょうの予定は午前中に武家屋敷、午後に兼六園と忍者寺というコース。

 武家屋敷が保存されている長町はホテルから徒歩圏内。武家屋敷跡の東西を囲むように大野庄用水という水路があって、用水に沿った道は「せせらぎ通り」と呼ばれています。うん、なかなかロマンチックなネーミング(*^_^*) この通り沿いには雑貨屋さんとかチョコレートショップとか、可愛いお店がたくさんあって、思わず寄り道しそう。

 大野庄用水は、天正年間(1573〜92)に、金沢城築城の物資輸送のために造られたのが最初で、その後、灌漑や物資の運搬、防火、防御、融雪といったさまざまな目的に使われてきたそうです。今でも現役で使われているっていうのが凄いですよね。街の中心部なのに水がキレイだし、水量も多いから、夏に散歩したらきっと涼しいんじゃないかな。たまにホタルも見られるんですって。

 南町からまっすぐ西に向かって、そこから用水に沿って南下すると、すぐに「金沢市足軽資料館」が見えます。かつて足軽の住んでいた地域から2軒を移築してきたそうで、下級武士の質素な暮らしぶりを偲ぶことができます。でも、質素といっても江東区の深川江戸資料館で見た庶民の長屋なんかに比べると、ずっと広くて立派な庭付き一戸建てなので、やっぱり加賀百万石って豊かだったのね、なんて勝手に思っちゃいました。

お屋敷よりお菓子が先

 さらに用水の道を行くと、今度は「旧加賀藩士高田家跡」というお屋敷が見えてきます。ここは用水を引き込んだ池や立派なお庭があって、いかにもさっきの家とは格が違うぞって感じ。しかも立派な長屋門があって、どんなお屋敷があるんだろ〜と期待して門をくぐると、あれれ、その先は道があるだけ。そうか、保存されているのはこの部分だけなのね。ちなみに長屋門っていうのは門の両側に奉公人やお馬さんの住まいがあって、長屋みたいになってる建物のことです。

 それにしても、このお屋敷ですらまだ中級クラスの武士だっていうんだから驚き。加賀藩ってどんだけお金持ちなんだろ〜なんて考えながら歩いていくと、今度は「武家屋敷跡野村家」という看板が見えてきます。ははぁ、下級→中級ときたから今度はきっと上級武士のお屋敷なのね。なかなか上手い見せ方だわ、なんて感心していたら道の反対側に気になるお店発見!

 「和菓子 村上 本店」さんです。店構えからして、スイーツ好きにはどうしても素通りできない、美味しいものあるぞ〜的なオーラを発散させてるんです。早速入ってみると、予感的中! まずパッケージが上品でキレイ。そしてお菓子がみんな美味しそうだったので、お客さんがいないのをいいことにガンガン試食しちゃいました。特に気に入ったのが黒ゴマをふんだんに使った「垣穂」というお菓子。そして求肥、こし餡、焼き皮の三重構造になっている「ふくさ餅」も絶品です。昨日あんなにきんつばを買い込んだことも忘れて、また買っちゃいました。こちらのお店、お菓子以外にも九谷焼とかいろんなグッズが置いてあって、眺めていると飽きないんですよ。

 手荷物が増えたことをちょっぴり反省しながら「武家屋敷跡野村家」に入ろうとしたら、あれれ、お隣にも美味しいものオーラ全開のお店が…。「茶菓工房 たろう 鬼川店」さんです。こちらのお店はグッとシックな雰囲気で、お菓子のパッケージが凄く洗練されているんです。奥には「武家屋敷跡野村家」のお庭が眺められるカフェもあります。“生チョコのような羊羹”というキャッチコピーが気になってショーケースを眺めていたら、傘のマークが入ったどら焼きがあって、そこに「弁当忘れても傘忘れるな」という添え書きが。

 そういえば、この文言を「金沢市足軽資料館」でも見たような…。そこで店員さんに聞いてみると、金沢は一年を通して、特に秋から冬にかけて雨がとても多い地域なんだそうです。それでこんな格言が生まれたのだとか。ちなみに傘マークのどら焼きは「お天気どら焼き」。そんなセンス抜群のお菓子を眺めていたらまた欲しくなってきたので「帰りにまた来ます」と言って「武家屋敷跡野村家」へ。

日本人でヨカッタ

 こちらのお屋敷、とにかく凄いんです。千二百石っていうんだからセレブだったんでしょうね。何もかもゴージャス。昨日の「志摩」さんも贅沢だったけど、こちらのほうが遥かに上。総檜造りの格天井とか、いかにもお金のかかっていそうな部分は、江戸時代の豪商宅を移築したものだそうです。かつては敷地が1000坪以上あったんですって。でも、圧巻なのは軒下まで水を引いた贅沢なお庭。こんなにきれいなお庭って、なかなか見られるものではないと思いますよ。特に今回は雪景色だからまた格別の味わいがあります。だけど、昔のおうちって寒いのね。特に足が…。庭の石橋の下で鯉も寒そうにじっとしていました。

 野村家を後にして再び用水沿いに歩くと、すぐに左手に美しい家並みが広がります。これが「土塀と石畳の小道」と呼ばれる場所で、長町武家屋敷跡のメインとも言える素晴らしい景観です。街灯がなければ、本当に江戸時代そのもの。冬の間は「こもがけ」と言って、土塀を雪害から守るために藁を編んだカバーをかけていますし、庭木にも雪の重さに耐えられるようにしっかり「雪吊」が施してあって、金沢の人たちが街の景観を守ることにどれだけ心を砕いているかわかります。

 それにしても民家の庭木とは思えないほど見事な枝振りの木々。時の流れが作り上げた景観ってこういうものなんですね。日本に生まれたことが誇らしく思える“何か”がここにはあります。小道がまっすぐに伸びずに、途中で折れ曲がっているのは、敵の侵入を防ぐための仕掛けなんだとか。ずっとここにいて、ここの空気を感じていたいと思いながらも、シンシンと降る雪の寒さには勝てず、一旦ホテルに戻ることに。

 今度はせせらぎ通りを北上して、昨晩おじゃました「食事処 いずみ野」さんの前を過ぎていくと、なにやら香ばしい匂いが…。どうやらそれは交差点の角にあるシックな洋館から流れているようです。匂いに惹かれて覗いてみると「ひらみぱん」の看板が。そうか、パン屋さんなのね。ワタクシのグルメアンテナがまたまた反応。時間があったら寄ってみたいな。

 ホテルに戻ったら、何とお部屋は清掃中(・_・;) 仕方ないのでラウンジでお茶をいただくことに。開放的なガラス窓から見えるのは、途切れることなく降り続く雪・雪・雪。街がどんどん真っ白になっていく。なんてステキなの…。

兼六園で遭難?

 午後はいよいよ兼六園♪ 歩いても行ける距離だけど、足下がおぼつなかいのでタクシーで。ふと気が付くと、道路に雪がありません。その代わり水が流れてる。そうか、スプリンクラーがあるんだ。運転手さんいわく「暖かい地下水を汲み上げて雪を溶かしてる」そうです。車窓から見える金沢城もすっかり雪景色。「殿様の庭だからさぁ、襲われたりしないようにお城の敷地内にあるわけ。今は夜ライトアップしてるから、その期間中は入場無料のはずだよ」と運転手さん。ラッキー♪

 兼六園の総面積は11.7ヘクタール。そう言われてもいまいちピンとこないけど、換算すると東京ドームが2.5個分ということで、とにかく広いんです。日本三名園の一つとか、国の特別名勝だとか、「宏大・幽邃・人力・蒼古・水泉・眺望の六つを兼ね備える名園」とか、そういう説明をしていると夜が明けちゃいそうですし、池泉回遊式庭園とか言われても、ワタクシ、お庭に詳しいわけでもないので、その辺はあんまりツッコミいれないでくださいね。

 有名な徽軫灯籠(ことじとうろう)の前に来た頃には雪が“本降り”になってきました。先客が記念撮影するのを待ってワタクシもパチリ。兼六園といったら、やっぱりここですよね。高台にあるので、晴れた日は金沢市街が良く見渡せるらしいんですけど、きょうは真っ白に霞んでいます。冬の風物詩「雪吊」も凄くキレイ。

 あまりに広い上に、雪が激しくなってきたので、赤い門をくぐって成巽閣(せいそんかく)に一時避難。こちらは、文久3年(1863年)に加賀藩の13代藩主・前田斉泰がお母さんの隠居所として建てた御殿だそうです。中に入ってビックリ! 午前中に下級→中級→上級という順番で武家屋敷を見てきたのですが、ここは更に上を行くゴージャスさ! やっぱり殿様は違うのね。写真撮影禁止なのでご紹介できないのが残念ですけど、欄間の彫刻とかため息が出そう。

 展示品も贅沢。ビロードにメチャクチャ細かい刺繍が施された着物とか帯とかも凄いんですけど、雛人形の調度品なんかを見ると、小さな小さな漆箱に拡大鏡で見ないとわからないような蒔絵が施されていて、きっと当時の職人さんが本物と同じような手間をかけて作ったんだろうと思います。兼六園に行く予定がある方は、絶対に見たほうがいいと思いますよ。

 そんなこんなで成巽閣を出ると、一面銀世界。しかもさらさらのパウダースノー。“雪女”は子供のようにはしゃいでしまいました。でも、ふと気が付くとまだまだ降りそうだし、このままだと遭難?しそうだったので、近くの金沢21世紀美術館に避難?することに。こちらも金沢の代表的な観光名所のひとつなんですけど、きょうの目的はここにあるガラス張りの純白レストラン "Fusion21"で、遅めのランチをいただくこと。

 真っ白なソファーに座ってホッと一息。こちらのおすすめはパレット型の(さすが美術館!)白い皿に好きなだけ盛ることができる前菜のビッフェ。金沢野菜をふんだんに使った前菜は見た目もキレイ。暖かいスープもあってお得です。もちろん、メイン料理もあってデザート、ドリンクと組み合わせることもできます。ワタクシはメインにパスタをオーダー。

 食事を済ませると、朝からの“雪疲れ”で少し眠くなってウトウト。でも午後4時に“忍者寺”の拝観を予約していたことを思い出しました。予約の10分前までに行かないと拝見できないということも…。時計を見れば、もう3時30分を回っているではありませんか! 美術館をじっくり見たかったけどそこは諦めて、いろいろユニークなグッズが売られていると評判のミュージアムショップも急ぎ足で眺め、タクシーに飛び乗ると、きょうの最終予定地“忍者寺”へ。

 “忍者寺”というのはニックネームのようなもので、本当は加賀藩の歴代藩主に縁の深い、妙立寺という由緒正しいお寺さんです。ではなぜ“忍者寺”なんて呼ばれるかと言うと、金沢城の出城としての役割を担っていたからなんだそうです。外敵の侵入を防ぐためにさまざまな仕掛けがあって、その構造があまりに複雑怪奇なために“忍者寺”と呼ばれるようになったとか。

 こちらも撮影禁止なので細かい説明はできませんけど、落とし穴とか隠し階段とか、拝観に40分もかかることからも、見どころ満載ということだけは保証しておきます。ただし、冬は足下が冷えるので、靴下は重ねて履くことをおすすめします(受付で販売もしています)。案内の女性は「忍者寺と呼ばれておりますが忍者寺という名前ではありません」と何度も言ってましたから、きっとその呼び方が嫌いなのね。でも、こんなに細かい仕掛けがいまだに残ってるなんて、金沢ってやっぱり奥が深い。

またもいい店発見!

 2日目の予定を無事に終えて、問題は今夜のディナー。スタッフさんが人気のイタリアンレストランを押さえてくれていたのですが、雪が積もってきた上に場所が遠いということで、近くの店に変更した方がいいのではないかということに。そこでふと思い出したのが午前中に覗いたパン屋さん。歩いて2〜3分だし、もしかしたら食事をできるスペースがあるかも。

 早速インターネットで検索したらビンゴ! 店内はカフェというか、ビストロになっていて、ディナーコースも用意しているとの事。早速電話予約。期待に胸をふくらませながら、雪の降りしきる中、ホテルを後にしました。

 大正時代の鉄工所跡を改装したという建物は、中に入ると手作り感に溢れたレトロな内装で、パリの路地裏にあるビストロという感じ。「ここは絶対当たりだな…」と内心ほくそえむワタシ。結果は写真を見て判断してくださいね。ちなみに、お会計の時にも「当たり!」って思いました。信じられないくらいリーズナブルなんですよ。ムフフ(^^♪ 店員さんもシェフも、ちょっとシャイだけど感じのいい人ばかり。帰りがけに「ひらみぱん」ってどういう意味?って聞いたら「シェフの名前が“ひらみ”なんです」とのこと。なるほど、ひらみさんのパン屋さんってことか。ナットク。<第三章へ>