第一章〜時は5月 花・花・花の別世界!

 季節ごとにテーマを決め、ゆったりしたスケジュールで古都を歩く。日本の原風景を求めて…。そんな旅こそ“アラカン世代”にふさわしいのではないだろうか。第6回目も、前回に引き続き宝塚歌劇団の元娘役トップスター・舞風りらさんが案内する初夏の足利市と栃木市。

巨大な藤の木って…

 ご無沙汰しておりました。舞風りらです。

 このコーナーがなかなか更新されないので「もう春だよ。桜も散ったのに、いつまで雪景色なの?」というご指摘をいろんな方からいただいたのですが、あっという間に春も過ぎて、いつの間にか汗ばむ季節になっちゃいました。皆さん、ホント、ごめんなさい m(__)m

 ニュースにもなっていたので御存知の方もいらっしゃるかと思いますが、先月(4月)は宝塚100周年の記念式典がありまして、不肖ワタクシも参加させていただきました。諸先輩方をはじめ同期のみんなにも会えて、パワーをたくさんいただいたのは良かったのですが、その後なかなかスケジュールが合わなくて、気がつけば世間はゴールデンウイーク…。

 「ゴールデンウイークはどこ行っても混雑するから避けたほうがいいと思うんだよねぇ」とアラカン編集長。「でもゴールデンウイークの前後は結構いろいろ仕事が入ってるから、今回は日帰りのスケジュールになっちゃいそう」とワタクシ。「日帰りかぁ…」と腕組みする編集長。しばらくウンウン唸っていたと思ったら突然立ち上がってひとこと。

 「そうだ! 足利があるよ」

 「えっ? アシカガ? それってどこですか?」

 「栃木だよ。栃木と言えば日光とか鬼怒川なんかが有名だけど、実はまだまだ隠れた観光スポットがあるんだ。特にこの季節は『あしかがフラワーパーク』だな。巨大な藤の木に花が満開になる様は圧巻だよ」

 「それイイ! この季節に花を見に行くなんてサイコーじゃないですか。でも、このコーナーって古い街並みとかがメインなんでしょ。大丈夫なんですか?」 

 「大丈夫。足利市っていうのは古くは足利荘(あしかがのしょう)として栄えた足利将軍家ゆかりの地だ。かつてザビエルも賞賛した足利学校や国宝・鑁阿寺(ばんなじ)もある。街並みもちょっとレトロでいい雰囲気だよ。時間があったら近くの栃木市にも行ってみるといい。ここも歴史ある街並みで有名だからね」 

 そんなわけで、連休明けの初日に足利・栃木の日帰りツアーが決定。不謹慎ではありますが、ワタクシの頭の中は古い街並みよりお花のことでいっぱい。ウチは一家揃ってお花好きなんですよね。藤の花って言えば、以前母が苗を買ってきて大事に大事に育てて、やっと小さなアーチに可愛い蔓を巻いたから、次の春には花が咲きそうだったのに、何を思ったか「切ったほうがよく育つよ」って言って父がハサミで蔓をチョキン。それが原因で藤が枯れてしまい、一時家庭内が険悪になったという苦い?思い出があります。

 それにしても、巨大な藤の木ってどんなんだろ? ワタクシの知っている藤って、神社とか学校にある藤棚がせいぜいだから、全然想像がつかない…。

なんて綺麗なの!

 あしかがフラワーパークへのアクセスは、東京から行くには東北新幹線小山駅でJR両毛線に乗り換えて、富田駅下車徒歩13分。浅草から東武伊勢崎線を利用する場合は、足利市駅で下車すればシャトルバスが待っています。都心から車で行くなら東北道を使って順調に行けば1時間40分ぐらい。いずれにしても東京から2時間圏内です。

 ワタクシの場合は、朝8時台の新幹線で宇都宮駅へ。駅までスタッフの方が車で迎えに来てくださるというので楽ちん♪ 宇都宮からだと70分ぐらいで着くそうです。普段の行いがいいから? 今日はお天気も最高。出発して10分ぐらいで、車窓から見える景色はまぶしい程の新緑です。都心にいるとこういう山の緑ってなかなか見る機会がないから、凄く新鮮。

 今回は連休明けだし、車もスムーズに進むだろうと思いきや、甘かったわ〜。現地に近づいてきたらすでに渋滞。やっぱり人気なのね。交通整理に汗を流すオジサンの指示に従って、ちょっと遠目の臨時駐車場に車を置いたら、あとは徒歩。あ〜、風が気持ち良い。空気がおいしい。

 ほどなく入り口に到着。入場料1,700円也。「ちょっと高くない? いつもそうなの?」ってスタッフさんに聞いたら、花が少ない冬の間は200円の時もあるんですって。要するに、開花状況で値段が変わるのね。だから今が一番高い時期みたい。でも、メール会員になっていたり、近くの施設で割引券を貰えば100円引き。さらに、一度使ったチケットを捨てずに持っていれば200円の割引券になります。リピーターの方はお得ですよね。

 西ゲートを抜けてまず目に飛び込んでくるのが、言葉を失うほど大きな藤の木。しかも、ひとつの花房の長さが1.8mですって。それが満開って想像できます? 紫の炎が一斉に頭上に降ってくる感じ。ワタクシ、思わず叫んじゃいましたもの。

 「信じられない! なんて綺麗なの!」

「敢えて否定しません」

 でも、これはほんの序の口。パーク内には広さが1,000uにもなる(畳600枚分ですって)樹齢145年の「野田の九尺藤」や、世界でも珍しい八重黒龍という葡萄の実のような花が咲く巨大な藤棚、さらに大小の藤の木がいたるところで咲き誇っているんです。

 しかも、色も紫だけじゃないのね。白い藤や黄色い藤(きばな藤)もあって、それが80mものトンネルになっていたり、「白藤の滝」やら「藤のドーム」やら、もう藤だけでお腹いっぱいなのに、5000本のツツジや1500本のシャクナゲも負けじと咲き誇っているから、もう花、花、花の別世界。綺麗すぎて死んじゃいそう。

 それにしても、花の数も凄いけど、人出も凄い。今日って平日じゃなかったっけ?って思うくらいの人の波。これじゃあ、編集長の言っていた意味もわかるわ。連休中はもっと凄かったはず。それに加えて、花々の甘い香りに誘われたのか、虫さんたちも大興奮で飛び回っているし…。

 「助けて!虫が飛んでくる〜」と撮影中にもかかわらず逃げまわっていたら「大丈夫。この季節は虫も人間なんかに興味ないですよ」とスタッフさん。確かにその通りなんでしょうけど、都会ではあまり見かけないサイズの虫が多くて…。

 結局、花の魅力に惹き寄せられるのは人間も虫さんも同じってことかしら。撮った写真を見せてもらって「いくら頑張っても花の美しさには勝てないわ」と溜息。するとスタッフさん「アハハ確かに。敢えて否定はしません…」わかってはいるけど、ちょっと失礼よね… (-_-メ)

夜はライトアップも

 さてさて、ちょっと趣向を変えてアカデミックな話を。パークの目玉になっている4本の藤の大木は日本の女性樹木医第1号である塚本こなみさんが移植したもの。これだけの大木を枯れないように維持するのは本当に難しいんだそうで、県の天然記念物にも指定されています。そして、何を隠そうその塚本さんこそ、このパークの園長さん。

 藤はうすべに藤、むらさき藤、長藤、八重の藤、白藤、きばな藤の順に咲いていくそうですが、特にきばな藤は栽培が難しいとか。でも、個人的には八重の藤が一番好き。見た目がキュートだし、とっても香りが強いの。そうそう、期間中はライトアップされているので、夜は夜でまたちょっと違った、幻想的な世界が楽しめるようです。

 広大なパーク内にはレストランやご当地グルメなどの軽食コーナー、オリジナルグッズを扱うショップがたくさんあって、ご多聞にもれずワタクシも“藤グッズ”を買いこんじゃいました。本当は鉢植えも買いたかったけど、荷物になるので断念。あ、そうそう。西ゲート近くのショップで売っている「藤ソフト」は、藤の花特有の甘い香りがして絶品です。訪れた際には是非お試しを。

 あしかがフラワーパークのすぐ近くには3万坪の敷地に大小30の建物があって、そこに伊万里・鍋島の磁器が10,000点収蔵・展示されている「栗田美術館」もあって、フラワーパークとセットの観光地になっているようです。陶磁器の展示即売スペースもあるので、好きな人にはたまらないかも。
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