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マスコミが宣伝する「期待の新作」は価格相応なのか? だまされないアラカン世代を自負する編集部員が自腹で検証!
シンガー・ソングライター、松任谷由実(58)の40周年記念ベストアルバム『日本の恋と、ユーミンと。』(11月20日発売)が初週33.6万枚を売り上げ、12/3付週間ランキング首位に初登場。2001年12/3付のバラードベスト『sweet,bitter sweet YUMING BALLAD BEST』(2001年11月発売)以来、11年ぶり22作目のアルバム首位を獲得した。1970・1980・1990・2000・2010年代と5つの10年代連続で首位を獲得したのは、シングルを含めても前人未到の快挙。アルバムでは徳永英明、桑田佳祐、山下達郎(3人とも1980・1990・2000・2010年代)が保持していた記録を塗り替えた。また、58歳10ヶ月でのアルバム首位は女性最年長記録。竹内まりや(57)が『Expressions』(2008年10/27付)で記録した53歳7ヶ月を更新した。(オリコン)
ソロデビュー35周年を迎えたシンガー・ソングライター、山下達郎(59)のベストアルバム『OPUS ?ALL TIME BEST 1975-2012?』(9月26日発売)が初週27.6万枚を売り上げ、10/8付週間ランキング首位に初登場。76年4月にシュガー・ベイブ解散後、同年12月にソロデビューしてから通算11作目となるアルバム首位を獲得した。(同)
CD不況といわれて久しいが、何とも景気のいい話である。しかも2人とも若者ではなく、れっきとした“アラカン”なのだから驚く。「これでどれくらい儲かったのか」などといういやらしいソロバン勘定は置いといて、素直に同世代の成功を喜ぶべきか、それとも、いまだにビッグネーム頼りの音楽業界を嘆くべきなのか…。
若者の「活字離れ」ならぬ「CD離れ」は、2001年以降に顕著になっている。CD販売は1995年がピークと言われ、この年にはミリオンセラーが20作以上あったのだが、2001年以降は毎年数作と激減している。原因としては、音楽配信によるデジタル・ダウンロードが一般化したこと。またスマホなど携帯ツールに使う費用が増え、CDに回す予算がなくなったこと。加えてレンタルや中古市場の成熟や違法ダウンロードのまん延なども挙げられる。
これは、なぜかつてウォークマンという革新的な音楽ツールを開発したSONYがアップルのiPodに遅れを取ったかという疑問の答えでもある。音楽出版、レコード会社を傘下に持つSONYにとって、配信という手法は身内を滅ぼす「タコ足食い」の危険性をはらんでいたからだ。
生活習慣の変化という部分もある。音楽に対する対峙の仕方も我々の世代とは違ってきている。かつては、アナログレコードの埃を丁寧にクリーナーで拭き取り、針先もスタイラスクリーナーで清めたあと、畳の部屋に正座して、A面とB面を順番通り聞く時代があったのだが、今や若者は部屋の中でも、何かをしながら携帯プレーヤーで音楽を聴いている。
これはちょっとした「逆転現象」でもある。50年代のレコードセールスはシングル主体で、そのヒットシングルをまとめたのがアルバムだったが、60年代に入ってビートルズやビーチ・ボーイズが成し遂げたのが、A面とB面のトータルでひとつの世界を作り出す「コンセプト・アルバム」の手法だった。
ところが、配信の時代になって曲のバラ売りが一般化したことで、再びシングルの時代に逆戻りしている。携帯ツールで聞く音楽は最初から自分で自由に編集できるオムニバスが普通であり、曲順やジャッケトといったコンセプトワークは、あまり関係なくなってしまったのだ。
そうなると、これからCDの価値を認めてくれて、CDを普通に買ってくれるのは誰か。そう、我々シニアしかいないのである。しかし、シニアが購買欲を示すコンテンツは限られている。AKBみたいにオマケを付けても売れるわけではない。だから、“定番商品”を手を変え品を変え出し続けるしかないのだ。この傾向はビートルズなどの「リマスター商法」で顕著になり、紙ジャケでコレクター心理をくすぐったり、CDのフォーマットが少しずつ変わる度に再発するという姑息な手法も多々見られる。
そこにきてこの「ユーミン」「ヤマタツ」という定番中の定番のご登場である。売り上げに貢献した半数以上は、おそらくシニアであろう。しかも、このベスト盤に入っている曲は、今まで買ったCDに含まれる曲がほとんどだと思われる。ボーナスとして付けられたユーミンとプロコルハルムの競演版『青い影』や、『硝子の少年』のデモ音源、初回限定版のDVD等が欲しくて買ったという人はどのくらいいるのだろうか。
しかし、だから価値がないとは言い切れない。それはやはりヤマタツ、松任谷正隆という希代のコンポーザー&アレンジャー&プロデューサー…(要するにマルチな才能)による最新リマスタリングの魅力である。かつて純粋なオーディオ少年だった我々は「限りなくアナログに近い」音を訴求するこの2人に対して、「もしかしたら部屋のオブジェと化したオーディオ機器を生き返らせてくれるのではないか」という期待を、どうしても抱いてしまうのである。
従って「音の違い」を感じることができる“耳”と“機器”を持っている人にとっては、このCDは間違いなく価格相応の価値があるだろう。しかし、ただヒット曲や名曲を並べて聴きたいというのなら、かつて買い求めたCDを集めてきて、この曲順通りにパソコンにダウンロードするのが正解かもしれない。何しろ初回限定版を2つ共揃えたら1万円近くなる。長引くデフレ不況下の企業努力として、レコード会社側はもっとコストダウンができたはずだ。再販制度にいつまでも甘えていてはいけない。多くのレコード店が町から消えたことに対して、彼らはどう考えているのか。そういう意味からすると、このベスト盤は、一般消費者にとっては明らかに「高すぎ」と言うべきではないだろうか。